第2話 シュガー18歳

 シロのことを考えていたから、体が浮いたことにドキッと緊張感が走る。


 だけど、僕を持ち上げてるのは女性だ。


 お父さんが高い高いをしてくれるように、若い女性が僕を持ち上げている。


「タツコちゃぁーんッ!!!」


 僕っていうより、タツコ!? タツコを抱きかかえてる僕をついで感覚で持ち上げてるの!? 華奢な女性だけど、凄くない!?


 なんだかお姉さんの間抜けな声に安心する。シロのことを考えただけで、思考回路が中二病っぽくなっちゃう! なんか、まあ、やっぱり勇者ってまだ決まったわけじゃないし、片田舎の僕がそうって方が普通に考えてあんまりないし! 大丈夫、大丈夫!!!



 タツコが僕の腕から飛び出して、女性の頭にカブリと噛り付く。

 なんて豪快なタツコ!


「ハハハッ! タツコちゃんの甘噛は痛いな!」


 ピンク色の髪の毛をツインテールにし、ピンクのワンピースを着ている、このお姉さん。そして、このセリフ、このアホな感じ! 凄い誰かに似ている!

 てか、タツコが噛りついてるから、額から血がッ!


「タツコ、ダメ! 血が出てるから!!!」


 タツコが、お姉さんの頭を齧るのをやめて、僕の腕の中に戻ってくる。


「タツコちゃんが、人間のいうことを聞いた!?」


 驚いたお姉さんの目線がやっと僕の方に向かう。


「なんだ!!! このカワイイ、クソガキはッ!?」


 今の今まで、僕のことを持ち上げてることに気付かないの!? アホの子!? そして僕のその第一印象は良いの、悪いの!?


「タツコちゃんが懐くとか、ズルくね?」


 お姉さんが急にヤンキーのように僕を睨みつける。

 もう聞かずして分かるよ。そっくりだもの!!! トーリの妹だ! 絶対! 妹がいるとか聞いたことないけど、そうだ! 親戚とかじゃなくて、妹! そっくり!!!


「とりあえず、下ろしてもらっていいですか?」

「いーよー」


 案外、快諾。


「お姉さんは、トーリの妹でしょ?」

「おにッ、兄貴のこと知ってるの!?」


 お兄ちゃんから、兄貴に変わるところなのかな?

 

 お姉さんが声を出しながら、順に指を指していく。


「てか、タツコちゃんでしょ……。兄貴と一緒でしょ……」


 お姉さんが僕の剣を指差す。その指が震えている。


 そして、お姉さんが地面に手を付けて叫ぶ。


「クソッ!!! またクソ兄貴に負けたッ!!! 兄貴ばっかり!!! なんか、こういうのまで、恵まれてるんだよなー!!! クソッ!!!」


 そして立ち上がって、お姉さんが考え込みながら、僕を見る。

 そしてポンッと手を叩いたかと思うと、僕のことを、お姉さんは肩にヒョイと乗せて担ぎ上げる。

 僕は米俵じゃないぃ!!!


 僕を助けようと、タツコがお姉さんの頭にまた齧りつく。

 お姉さんは、タツコに齧られたまま、まったく動じることなく、どんどん足早に歩いていく。速い、速い、速い!!! もう、町を出る勢い。


「なっ! え!? 何!?」

「君、兄貴が見つけた勇者でしょ? 君のこと、今、私が見つけたことにしちゃえばいいかな!と思って! いいかなッ!?」

「一応質問してるけど、もう実行中だし、そしてダメだし!」


 トーリより強烈だな! この人!!! 上を行くよ、妹!!!


「お姉さん、この剣バッタもんだから! トーリは僕とタツコが仲良くできるから、研究したくて、勇者だってこじつけてるだけで!」


 お姉さんの動きがピタッと止まる。


「そうなの?」

「うん」

「……、なーんだ」


 お姉さんが、やっと僕を下ろしてくれる。そしてタツコはまだお姉さんの頭に齧りついているから、僕は声を掛ける。


「タツコ」


 僕がタツコに向かって両手を広げると、タツコが僕のところにまっすぐ飛んできて、僕に抱っこされる。


 それを、お姉さんが指を加えてじっと見てる。


「うわあんッ!!! 羨ましいよっ!!! 何それ!!! 超カワイイじゃん!!! ズルッ!!!」


 まあ、タツコがカワイイことは、否定しないよ。


「おい、ガキ!!! 満足そうに照れるな!」


 お姉さんが僕を見下ろして、睨みつける。勇者疑惑がなくなっても、どっちにしろ、このお姉さんに掴まったことには、変わりがないかも……。


 怖いからちょっと、タツコからお姉さんの目をそらすためにも、何か話題を……。


「お姉さん、何故にそんなに怪力なんですか? 凄いですね!!! トーリの妹ってことは赤の家の人でしょ? 魔法使いでしょ?」

「……。私が怪力な訳を聞いてくれるかい?」


 何か覚えのある流れ……。面倒くさッ……。解放されるための話題がより拘束されてしまう結果に。でも、まあ、出港までどの道、ヒマだしな。


「うーん……。興味ないけど、ヒマだから聞いてあげてもいいよ」


 お姉さんがシブーイ顔をする。

「君、結構あれだね……。何かそういう風に言っちゃうタイプ? 寂しッ!!!」


 あー!!! もうっ! 面倒くさッ! 僕は無理に作った笑顔をお姉さんに向ける。


「わー!!! 聞きたいな!!! 楽しそうだな」


 お姉さんは満足そうに頷く。


 お姉さんと僕は端の縁石に腰を下ろす。


「君、赤の家のこと、どれだけ知ってる?」

「ピンクの髪してて、竜倒してくれるくらい」

「田舎者はそんなもんか。仕方ないな」


 この失礼な感じ、この人、どっかのリーゼントにも似てない!? でも、ツッコムのも面倒だからスルーしてあげる。


「私の名前はシュガー。年は18。そう、赤の家に生まれた長女。赤の家の魔力は女性に強く現れることがほとんどで、赤の家は女系なんだ。代々、女性が頭首を務める。今の頭首は、もちろん、マッ、母」


 ママから、母に変わるところなのかな。へー、女の人なんだね。


「兄貴が誕生後、兄貴にはすぐにとても強い魔力があることが分かった。次に生まれたのが私。男でコレなら、女である私はどんなに凄いんだろうって、凄い騒ぎになったらしい」


 この流れだと、結果は……うん。


「私の魔力はボチボチだった。謙遜とか差し引いて、本当に中の上な感じ……。悪くないけど、ボチボチ。兄貴は魔力だけでなく、魔法や竜の研究や勉強にも熱心で、当然次期頭首は、兄貴で決まり。褒められるのは、兄貴ばっかり!」


 ああ……。リングといい、トーリで、みんな苦労してるな。


「そして討伐一家の伝統の初陣であるダンジョンへの挑戦!」


 出た! トラウマ生産機!


「私は10歳で挑戦した。自分から名乗り出た。私よりも兄弟のごとく、コソコソと仲良くしてた青いリーゼントがチキンになったせいか、兄貴は熱心に挑戦前に、つきっきりで私に魔法を教えてくれた」


 トーリッ!!! 何やかんや、トーリにはそういうところがある!!! 優しッ!!! 妹にリングと同じ思いをさせたくなかったんだね! 優しッ!


「でも、そのことが……、なんか……、スゲー、ムカついた。兄貴にめっちゃ、苛ついた。年子だから魔法の威力はともかく、魔法についたては知ってたし。大分上からだなって」


 はうッ!? トーリの思い、届かなかったー!!! 


「その時に兄貴から聞いた魔法は一個だって、ダンジョンで使ってたまるかと思った。いや、使わないと決めた。でも、兄貴がアドバイスをくれた魔法は、私が使える魔法のほぼ全て」


 え……。魔法なしでダンジョンを!?


「だけど私は、少しの魔法と、腕力と、脚力のみで、ダンジョンを制覇した! 死ぬかと思った! けど、やり抜いた!!! 楽しかった」


 スゲーッ!!! 初の自信を付けるパターン!!! 本来こういう成果のためにあるんだね! ダンジョンへの挑戦!!! シュガーの方向性はともかく!


「私は気付いた……、いや、悟った……。筋肉は裏切らない!!!」


 流行りだね! いや、ちょっと前か!


「筋トレしてたら、リーゼントも来て、教えてあげた」


 そこに繋がる!? リングの師匠!


「からの、私は決めた! ブジュツマジュツシになることを!!!」


 うん?


「世界初の武術魔術師になることを!!! ネーミングは自分でも微妙だっていう自覚があるから、いいのがあったら名付けてくれてもいいよ! まあ、とにかく! 武術と魔術の融合! てか、もう、なってると言っていい!」


 討伐一家なのに、竜好きと、少し改善したものの魔物恐怖症と、魔法使いなのに武術……。

 でもカッコイイよシュガー。


 シュガーは親指を立てて笑顔で僕にいう。


「てなわけで、君のこと、さらっていいかな???」


 僕は冷静に首を横にふる。どんなわけだ……。


「ダメだよ、シュガー……。何やかんや、僕が突然いなくなったらトーリと、リングが心配しちゃうでしょ」

「だってさ! 君はそういうけど、兄貴が見つけて、それで王都まで行くんでしょ!? やっぱり勇者だと思うんだよねー!!!」


 そして、僕は空回りしてしまったトーリのことを気にかけて聞いてみる。


「まあ、僕は違うんたけどさ、シュガーは、勇者探しで抜け駆けしてしまう程に、トーリのこと嫌いなの?」


 シュガーが頬を膨らます。


「そうだよッ!!! 兄貴なんて……、兄貴のことなんて……全然スキじゃないんだからッ!!!」


 良かった! 分かりやすくツインテの性格だね! シュガー!!! 








 

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