海上戦! 水竜vs討伐一家

第1話 勇者疑惑

 ソイ君の村を出て数週間。ソイ君がいた、とんだ僻地の村から、やっとそこそこの港の町につく。


 村を出て初日に私、赤の家のトーリでも手こずる程の竜に遭遇。

 ソイ君がとても、しっかりしてて助かった。


 私が戦闘に集中できるように、私を気遣い、タツコも逃がし、そして何よりリングを励ます優しさ。


 私だけじゃ、リングのトラウマの克服はできなかっただろう。ありがとう…ソイ君。本当にありがとう。


 10年もの間、リングの魔物恐怖症を克服するために、リングの親父さんと、あの手この手を使ってきた。


 こっそりリングのベッドに小さい魔物を仕込んだり。


 リングの親父さんが、ショック療法がいいって、専門家の先生に言われたって言ってたけど、あれは私も良くなかったと思う。先生も金積まれて何か言わなくちゃいけない感じになったんだと思う……。


 本当に本当にありがとう、ソイ君!!! 


 やっぱり勇者の剣抜いただけある! てか、ソイ君を見つけた私スゴッ! 世界中で探してるのに超ラッキー! やはり、天才は、神にも愛され……


 おっと、脳内でまた自画自賛が始まってしまった。

 違う、違う。


 そう、やっぱりソイ君はそうなんだ。勇者たる人。ソイ君のお母さんリタさんとの約束を守るためにも、無事王都に送り届けなければと、身を引き締めたら……



 やっぱり、ソイ君は普通の子供だった!


 初日こそ大きなトラブルがあったものの、それ以降の旅は平穏そのもの。


 道中、多少の魔物が出るものの予定通りに村から、村に辿りつくことができ、野宿することなく、宿にも泊まれている。


 だけども!


 ソイ君は、お母さんがいないことを、いいことに夜ふかしするし、朝起きないし、それを叱るとスネるし! 


 お母さんにソイ君は夜ふかしすると体調を崩しやすいから、なるべく早目に寝かせるようって言われてるのに! 美人のお母さん、リタさんとの約束ッ!!!


 後、これだけはこなすようにって学校の先生から言われたプリントはやらないし!!!  

 叱るとスネるし! 


 タツコはソイ君が私にイジメられてると思って噛み付くし! 違うの! タツコ! ソイ君がいけないの!


 13才ってこんなんだっけ? 私はもうちょっといい子だったと思う。


 頼みのリングは、ソイ君と一緒に遊んじゃうか、ソイ君と喧嘩しちゃうか、どっちか!!!


 ああ……、子供を預かるのって、こんなに大変なんだ……。


 そして、今度は迷子ーーー!!! 


 森の時は私が悪い、そう私が悪い! だけど、今度は田舎者のソイ君は、町に興奮して、始終浮かれっぱなし! からの迷子!


 タツコはソイ君とピッタリいつもくっついてるから、タツコも所在不明……。リングと一緒にソイ君とタツコを探す。


 船の出港までは大分時間があるけど、嗚呼……。


 ソイ君を探しながらリングにぼやく。


「ああ……、リング。子供を預かるって大変だね」

「ソイからしたら、俺らも変わらないんじゃね?」


「うん?」

「お前、甘い物ばっかり食べるし。さすがに食べすぎ。俺がやめろっていうのにやめないし。たまに夕飯はスイーツの食べ過ぎで食べられなくなるし。子供か!? ちょっと痛い女子かッ!? 竜とか、本とか、勉強に夢中になると、話しかけても、うんとも、すんとも言ってくんないし……。あれは、ヒドイ」


「えええ! ちゃんと答えてるよね!?」

「答えてねーよ。もしくは、聞いてもいないのに、適当に返事するだけ。俺ら、超スネてる」


 おろろ。それは失礼。


「今だって、ソイが何かお前に言って行ったのに、お前聞いてなかったんじゃないか? さっき勉強してただろ? 以外とそういうところ、ちゃんとしてるぞ、ソイ」


 ま、マジで!? べ、勉強してたな……。新しい本が手に入って……。


 う、うん……。自分ばかりじゃなく、相手の立場になるって大切だよね! 今、勉強したよ! 学んだよ!


 そんな時、奥様達の会話が聞こえてくる。隣町で人さらいが出たとかなんとか。この町も気を付けなくちゃ、とかなんとか。奥様のお嬢さんは13才だとかなんとか。


 すごい、物騒な話だな……。13才……。ソイ君と一緒。私はリングから、そんなことない、大丈夫って安心できる言葉が欲しい!!!


「ひひひひ、人さらい?……で、でも、その点は、ソイ君は男の子だから安心だよね???」

「いや、ヤベー奴とか多いから、そうも言えないだろ。美少年っていったら、あきらかに言い過ぎだけど、そこそこ可愛いじゃん? ソイ。THE子供ッ!!!って感じで」

「リ、リングっ!? 親友が変態!!!」


「違うッ!!! お勉強ばっかりで世間知らずのお前に言ってるの! ヤベー奴が多いってこと! しかも、そういうのじゃなくても、男だったら過酷な仕事させるとか、いくらでもあんだろ?」

「リ、リング……。お坊ちゃまのクセに怖いこと言うんだね」


「トーリよ…。俺も、お前も、お坊ちゃまだ。世間からしたら、赤子の手を捻るようなもの!」

「赤子の手を!!! ソイ君ッ!!! そ、そういえば、ソイ君が、さらわれる、さらわれる森で言ってたよね……。森でソイ君に目をつけて、跡をつけて、僕らの目を盗んで、この町で!?」

「いや、森を出てからだいぶ立つし、そこまで言ってないけど、それこそお前が森でソイを放ったらかしたりするから。美人だかなんだかのお母さんに任せてくださいっていったんだろ? ちょっと脅した……トーリッ!?」


 大変だ! ソイ君ッ!!! 美人のお母さんに面目が立たないぃーーー!!!



ーーー


 トーリが相手をしてくれなくて、ヒマ!!! 


 そんなわけで港町の中をタツコと散歩する。船の出港まで大分時間もあるし。リングもどっか行っちゃってたし。最初からリングについていけばよかったなー。


 ちょとブラブラしてくるって声掛けて、トーリは返事もしてたけど、聞いてたかな。あの感じは聞いてない時の返事なんだよなー。でも、書き置きまでしたから、さすがに大丈夫か!


 町の中の露店をみると、白い陶器やガラスばかりを扱ってる店が目につく。食器や、雑貨、ランプなんかもある。


 少し冷ややかな感じはするけど、普通の白とは違う感じがして、どれも、とても綺麗だ。


 僕は突然、彼のことを思い出す。


 シロ……。


 思い出すと、ゾクッとする。トーリとリングといると、始終バカなことばかりで、忘れてたけど、急に怖くなる。


 シロと話していると僕が僕でいられなくなってしまうような怖さがある。


 人の心を、サッと持ちさってしまうシロ……。


 僕に悪意があって、すごく嫌いで、だけど、僕のことが嬉しいと言ったシロ。

 僕自身、ただ突き放してはいけないような気がする、シロ。


 「勇者」って、何だ? 



 シロも僕をそう呼んだ。


 まったく知らない人までもが、そうして僕を認識してる?


 「勇者」という言葉の意味から言って、ヒーローや正義的なものをイメージするけど、何なんだ?


 そもそも勇者という存在は討伐一家ではないのかな? 巨大竜の討伐に対してのプラス要素として必要ということなら納得がいくけど、その実態は分からない。


 剣は経年劣化で抜けた。


 そう、みんなに言ってきた。でも、そう思い込もうとした面もあったかもしれない。


 慣れ親しんだ村や、母さんと離れなきゃいけない可能性があることが寂しかった?


 それもある。


 けど、それ以上に何だか胸騒ぎがあった。


 剣を持っておくように村長に言われて、友達なんかが羨ましがるから、悪い気はしなかったりもしたけど……


 本当にみんなが、羨むような存在なんだろうか?


 僕はこの一件のことを「勇者疑惑」って心の中で呼んでる。こんな能天気な性格だから、あまり考えないで、忘れちゃって、目の前のことに集中しちゃうけど、そう呼んでる。


 僕はシロに聞いた。「シロは良い人」かって。

 それは僕と同じ立場だと言ったシロに聞いてみたかったから。それは僕の立場でもあるかもしれないから。

 シロは「全然違う」と言っていた。


 はっきり言うと、僕は僕自身が「悪い人」なんじゃないかって不安があるから、予感があるから、「勇者疑惑」って呼んでる。


 「良い人」「悪い人」誰が決める? 


 10人いたら10人が悪い人だという、その人のことを、そうだとは、僕は思わない。


 母さんも、どんな人でも味方になってあげてって言っていたし、一方を聞いて判断しちゃいけないって言っていた。すごく分かる。心の底から本当にそう思う。

 



 でもそれは……、僕じゃない人だった。



 僕自身が「悪い人」である可能性を僕は考えてこなかった。





 僕は多分、その「悪い人」でいることは出来ない。そんな心の強さはない。


 そんな僕は母さんの言葉を鵜呑みにしただけで、母さんのような人ではない証拠だと思う。

 そうすべきだと教えられたから、そう思っただけ。


 シロに心を持っていかれてしまうと思ったけど……母さんや、村のみんな、トーリやリングといる時のぼくじゃなくて……



 シロといる時の僕が本当の僕な可能性。


 今の僕が本当の僕ではない可能性。




 シロは僕のことを迎えにくるって言っていた。なるべく早くって。それは……いつだろう??? 討伐一家は敵、王都には行ってはいけない。断片的な言葉の数々……。



 僕は、急に不安で、不安で仕方がなくなって、自然とタツコを目で追う。


 タツコは、僕の側をいつものように、ご機嫌でフワフワと飛んでいる。その姿を見ただけで安心する。


 タツコが僕の不安に気づいたのか、僕の肩に乗る。いつものように、頬ずりしてくる。タツコは、僕が安心できるように、励ましてくれてるんだ。


 シロといる時の僕は僕じゃない。


 シロといる時の僕じゃなくて、母さんや、トーリ、リングといる、今の僕。これが本当の僕だ。そうなんだ。


 町中なのにとか、もう13才なのにとか、考える余裕もなく、僕はタツコをぬいぐるみのように抱きしめる。


 タツコはじっとしててくれる。


 タツコがいれば大丈夫。シロに心を持って行かれてしまうことはない。


 大丈夫。いつもの自分に戻ってきた。


「ありがとう、タツコ」


 そう声を掛けると、「キュッ」と小さな声が返ってくる。カワイイッ!!! 超、カワイイ!!!


 大丈夫だ……。これが、僕。タツコ、本当にありがとう。


 そうしていると、僕の体がフワッと浮く。


 誰かに抱きかかえられたッ!


 





 

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