第6話 そんな髪型、やめちまえ!

 魔法陣との追いかけっこ! 


 この雷の魔法を、食らったらどうなるのかな……。考えただけで、ゾッとするけど、本当にもう限界だよ!


 トーリに戦闘に集中してもらうために、出来る子アピールしたものの、シンドイ……。

 

 突然、何かにぶつかる。うわッ!!! こんな時に何!!! 無駄にデカイ図体!!!


 リングッ! それにタツコ!!!

 

 魔法陣から、雷が放たれる。僕はリングと、タツコを突き飛ばして、僕も転がって、雷を避ける。


 それから、立ち上がる。タツコが僕の胸に飛び込む。


 もうッ!!! あれだけ言ったのに!!! 戻って来ちゃった!!! もーーーッ!!! でもカワイッ!!!


 僕はタツコを抱きしめて頬ずりする。


 いや、逃げなきゃ! 僕とリングと、タツコで、魔法陣から走りながら、みんなで逃げる。


 何!? このコントみたいな状況!!!


「リング! 何してんの!? この状況は何!?」

「いや、俺なりに助けに来たつもりなんだけど!」


「そうなのかなって思うけども! これじゃ何にもなってないよね!?」

「分かってるよッ!!!」


 逆ギレ!? 何で!? リングには本当にそういうところがある!


 リングは走って逃げながら、トーリの方を見る。


「トーリが……苦戦してる! もう、ダメじゃん! 俺ら!!!」


 もう! このリーゼントは何しにきたんだ! 一緒に逃げて、悲観して! プラス要素がないーー!!! 


 トーリが竜に大きめの炎の攻撃を食らわして、そのすきにコッチにくる。


 リングがトーリに向かって叫ぶ。


「わあ! トーリッ! コッチにくんな! 竜まで来るだろ!? バッカ! トーリッ!!! 来んなよッ!!!」


 ヒドくね!? このリーゼント、本当にヒドくね!?


 空中を浮いてたトーリが、着地する。そして、リングに駆け寄ってリングの肩を、ガシッと掴む。


「リング、不味い……。この竜に勝てない!   時間の問題……負ける!!!」

「………。時間の問題って……。負ける!? えええ! お前天才だろ!?」


「こんなの私も初めてだけど、強い! 何より動きが速いっていうか、私の攻撃方法を読まれてる!」

「マジかよ……。どうすんだよ」


「リング、青の印で竜の動きを封じて! その間に私が攻撃する。動きさえ封じれば、威力では竜より私の方が上だから勝てる!」

「できないよ……」


 竜がコッチに向かってくる。トーリはまた空中で浮かびながら、戦う。

 

 コッチはコッチで、魔法陣から逃げる。


 忙しッ!!!


 戦いながら、トーリが叫ぶ。

「リング、君は出来るんだよ!!!」

「出来ないよ! 俺のリーゼントが崩れるだろ???」


 トーリが、とうとう怒鳴る。



「そんな髪型!!! やめちまえッ!!!」



 トーリって怒るんだ……。そして、もっとも、もっともだよ!!!


 続けてトーリが戦いながら、リングを説得する。

「リング聞いて!」

「イヤだ! 聞かない! 出来ない!」


 タツコがリングのリーゼントをついばむ。

「だから! リーゼントはやめて!!!」


 ぼ、僕も協力しなくちゃ!

 走りながら、ジャンプしてリーゼントを引っ張る。

 カオス、カオス、カオスッ!!!僕も、超マルチタスクだよ!!!

 リングが慌てる。


「だから! リーゼントはっ!!!」

「やめるから! リング!!! とりあえず、トーリの話を聞こう!」


 リングが小さく頷く。ヨシッ!


 トーリが戦いながら、リングに話す。


「子供の頃、ダンジョンで、僕が君を置いていって、それがリングのトラウマだろ!?」

「そうだよ!!! なんで、そんなことを今、あらためて言うんだよ! お前が竜に夢中でどっかに行っちゃったんだよ!」


 トーリが叫ぶ。


「違うんだ! リングの親父さんに頼まれたんだ! リングは出来るからって! だから途中でリングを一人にして欲しいって。ダンジョンに挑戦しろって言ったら私を頼ると思う、だから、そうしてくれって。そうしたら、こんなことになっちゃって、親父さんに、本当に申し訳ないけど、秘密にしておいて欲しいって言われたんだ」

「そんな……。クソッ!!! クソ親父!!!」


 トーリ……憎まれ役をリング親子のために。なんてこった……、ただの竜好きバカじゃなかったんだね。そしてまたキレるリング……。


 トーリがめげることなく、リングを説得する。


「あのダンジョンはレベルが高いってリングは思ってたかもしれないけど、そうじゃないんだ! 親父さんはリングのこと誰より大切に想ってる。リングが死んじゃうようなダンジョンに挑ませるわけない!」


 今度はリングが黙って、噛みしめるようにトーリの言葉を聞いている。

 そして、リングが叫ぶ。


「嘘だッ!!! 今だってあんなダンジョン……無理だよ!」


 トーリが今度は少し優しい口調になる。


「リング、知ってるんだよ。私も親父さんも。筋トレと、リーゼントだけじゃない。あれからも、ずっと、ずっと訓練してただろ? 何回もダンジョンにも挑もうとしてた! 僕も、親父さんも知ってるんだよ、リング!!! リングが、たくさん、たくさん苦しんで、ずっと、ずっと努力してきたこと!!!」


 そうだったのか……。リング。出来るよ、リング!!!


「リング! 君は出来たんだよ! 昔も、今も………これからも!!!」


 リングが首を振りながら、涙を流す。


「嘘だ……、嘘だ……、全部嘘だ……。窮地でトーリは機転をきかしてるんだ……。嘘を言ってるんだ」


 ああ! もう! リングッ!!! 

 

 タツコがリングのリーゼントを、ついばむ。僕もリングのリーゼントをジャンプして、引っ張ろうとする。


 リングがピタリと、動きを止める。


 僕達の上にあった魔法陣を、別の魔法陣が現れて、あっという間に相殺する。


 リングが地面に手をつく。


「俺のぉ! リーゼントがぁ!!! 崩れるだろうがッ!!!」


 竜の真下に巨大な青い魔法陣が現れる。

 

 リングが竜を睨みつける。


「青の家が、リング! 青の印ッ!!!」


 竜の周りをぐるりと水の壁が囲う。水の壁は高く厚く、竜はそこから逃げようとするが、逃げることができない。


 そこへ今度はトーリが両手を天にかかげる。


 竜の上空に巨大な魔法陣が現れる。


「赤の家が、トーリ! 赤の印ッ!!!」


 竜に大きな炎の矢がいくつも降りかかる。


 なすすべなく、竜がバタリと倒れる。


 トーリとリングの共闘で竜を倒した!


 す、スゲー!!! 下からも、上からも。スッゲー!!!


 トーリが空中から、着地して、僕らのところにやってくる。


 リングがボロボロ泣いてる。

「出来た……。出来たよ……」


 トーリがリングの肩を叩く。リングが顔を上げてトーリを見る。

「出来たよ! 俺! トーリッ!!! やっと、出来た! 10年もの間、何も出来なかったけど、やっとできた」


 トーリが、うんうんと、頷く。

「私のおかげだよ、リング」


 満足そうなトーリの顔をみて、リングがぼそりという。

 

「……。トーリがあの時俺を置いていったのは、親父に言われたの半分、マジで竜に夢中になったのが半分だと思ってる」


 今回、僕とタツコを置いていったことを考えると、それは否めないよね…。


 でも、本当に良かったよ。


 トーリとリングの友情?に、なんやかんや、僕もジーンとしていると、僕は誰かの目線を感じる。


 崖の上に人影。あれは……、あの人は。村にもいたローブを着た人?


 僕は一人で、駆け出す。


「ソイ君ッ! 何処にいくの!?」


 トーリの声が聞こえるけど、僕は構わずその人影を追いかける。


 僕は、その人が、そんな人だなんて分からなかったから。


 僕は一人で駆け出したことを、すごく後悔することになる。

 






 

 

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