第5話 偽者勇者 VS ホンモノ勇者

 竜が僕の方に近づいてくる。


 とりあえずは、この剣で戦うしかない。

 竜が突然僕に食らいつこうとする。動きが、速いッ!

 

 だけど、竜の牙を、なまくらの剣でなんとか、薙ぎ払う。

 オジサンにちょっと習った程度の剣だけど、何故か結構動ける。トーリが目を覚ますまでなら、なんとかなるかもしれない。


 竜が今度は手で僕を攻撃しようとするけど、それも、なんとか剣で払う。動けるな!     僕!


 それでも竜は続けて攻撃してくる。いや、なんか、これは違うな。


 竜が……本気じゃないんだ。


 ネチネチと続く攻撃。僕が試されているというか、なんというか。


 猫が捕らえたネズミを、殺さないで、遊んでいるのに似ている。


 この竜、性格ワルッ!!!


 僕はとうとう、逃げ場のないところまで、追い込まれる。トーリ! もう、無理かも! お願いッ!!! 目を覚まして!!!

 遠くで倒れているトーリを見るけど、動く気配がない。


 追い込まれたところで、案の定タツコが、僕の前に飛び出してしまう。


「やめて! 戻って! タツコッ!!!」


 小さなタツコが、竜の前で小さな火を吐く。そんなタツコを竜が大きな手で攻撃しようとする。


 そんなの、そんなの、小さなタツコがそんな攻撃を受けたら。タツコが、タツコが……


 胸が締め付けられるように痛い。


 目から涙が溢れ出る。


 僕の目の前で、タツコが死んじゃう! そんなの、絶対に、絶対に、




 絶対にイヤだッッッ!!!! 




 タツコを攻撃しようとした竜の動きが止まる。僕は、それを逃さない。


 竜の体に登って、竜の右目に剣を突き刺す。

 痛みで竜が叫び声を上げる。


 暴れる竜から、飛び降りて着地する。遅れて落ちてきた剣をキャッチして、鞘におさめる。

 そしてタツコを抱き、竜から離れる。


 僕は母さんが、僕にしてくれたように、タツコをギュッと優しく抱きしめる。


 母さんは、僕に大切なことを伝える時にいつも、こうする。僕が危ないことをしてしまった時とか。


 決して、頭ごなしに怒ったり、怒鳴ったりして僕の意識を縛ったりしない。


 優しい口調で、分かりやすく伝えてくれて、僕に判断を委ねてくれる。


 僕は母さんを思い出しながら、タツコに語りかける。上手く……出来るかな。


 落ち着いた声で、タツコを安心させてあげられるように。


「タツコ、聞いて。タツコは飛べるでしょ? ずっと、ずっと、木より高く飛ぶんだ。そうしたら、森の出口もすぐわかる。タツコは逃げるんだ。僕は大丈夫。後で合流しようね」


 抱きしめていたタツコを離して、タツコを見る。

「お願いだよ、タツコ」


 タツコは、僕の目を見ると「キュッ」と小さく鳴いて、高く飛んでいく。


 良かった……。

 上手く出来たみいだ。

 後で合流……、出来るといいけど……。

 

 目の攻撃を食らった竜がコチラを見る。目が……回復してる。


 僕の前に魔法陣が現れる。


 うわッ……。来たか。僕はとにかく、魔法陣から逃げる。雷みたいな魔法がどんどん放たれるけど、とにかく逃げる。


 結構、逃げれるもん!? でも、体力的にもう限界かも。


ーーー


 竜の目が、ソイに攻撃された。


 操っている僕に、その痛みは、そのまま伝わる。僕は激痛で目を抑える。


 クソッ。


 一瞬だけど、竜をソイに乗っ取られた。術もナシにこんなこと、出来るのか? 僕が術を使って操っているのを邪魔して?


 でも確かに乗っ取られたのだから仕方がない。剣の加護に加えて、こんな力まで。


 僕がどれだけ、苦労してここまでになったと思っているんだ。反則だ。


 ソイッ! お前なんて、本当にいらないッ!!!


ーーー


 走り回って、もう、本当に限界だ。もう、本当に無理。

 更に、大きな魔法陣が現れる。クッソ! もう足が動かない!


 魔法陣から雷が放たれる。僕は目を閉じる。

 

 人影を感じる。


 目の前にはトーリが……いる!!! 魔法で防御してくれてる。

 僕は涙声でトーリに訴える。


「トーリッ!!! 遅いよぉ!!!」

「ゴメン! 油断しすぎちゃった!」

「死ぬところだよ!」


 魔法で防御しているトーリが辛そうだ。


「トーリ……大丈夫?」

「実は、こんなに魔法使う竜は初めてなんだよね。友達になりたい」


 そんなトーリに、僕は本当に怒る。


「まだ言うか!!!」

「ウソウソ! でも、このまま防御してても、チキンレースっていうか、ただの消耗戦。そこらの竜だったら、僕の魔力でも押し勝てると思うんだけど、この竜は未知数」


 いつも飄々としているトーリが苦しそうだ。


「トーリ……勝てそう?」

「竜好きでも、討伐一家として、人命第一だから。勝たないとね」


「トーリ、僕のことは、心配しないで! 結構、動ける。なまくらみたいな剣で竜の目も切りつけたんだ。すぐ、回復しちゃったけど」

「剣、鞘から抜いたの? 剣の加護かな?」

「剣の加護? そんなご立派なものではないかな!? だって刃こぼれ凄いよ!? 加護ってんなら、もっとピカーッてなって欲しい」


 トーリが、少し笑う。


「あ、そうだ! タツコも逃したよ! パパには伝えておかないとね」


 またトーリが笑う。


「頼もしいね! ソイ君」

「うん! 大丈夫!」


 トーリが真剣な顔つきになる。


「このままだと消耗戦で負ける可能性が大きい。僕の魔法でこの雷を相殺する。その瞬間に防御の魔法を切るから、ソイ君は出来るだけ遠くに逃げて」

「それだけでいいの!?」


「一瞬だよ!? 油断しないで」

「トーリに言われたくないよ!」

「ハハッ! それも、そうだ! ゴメンッ! 3秒読むから、逃げて」

「分かった」


「3、2 、1」


 トーリの魔法と、雷の魔法の相殺で、辺がとんでもなく明るく照らされる。


 僕は転げるように逃げる。

 結構、緊張したーッ!


 トーリは!? トーリの足元に魔法陣が現れて、トーリが空中に浮く。

 空中で、トーリが竜と魔法で攻撃し合う。



 スゲェ……カッコイイ。


 そんな僕の目の前に、また魔法陣。


 ウッソ……。そんなマルチタスクな感じアリ!? 見とれている場合じゃなかったー!!!


 本当にこの竜、性格悪いッ!!!


 また、魔法陣との鬼ごっこが始まる。


ーーー


 はあ。俺はまた逃げてしまった。情けない。自分で自分が、情けない。


 リーゼントにしても、筋トレしても、情けないリングには変わりがない。

 

 実態じゃなくて、飾り立てることで、ごまかしても、何もならないって分かってるのに。


 森の真ん中でうずくまる。


 こうしていれば、トーリが竜を倒してくれて、二人が俺を見つけてくれるかな。


 森の中を下手に歩いても、危ないしね。


 すると俺の手に何かが噛みつく。


 魔物!?


「ギャア!」


 俺は叫び声を上げる。でも、そこにいるのは、タツコだ。なんだ……。

 てことは、もう竜を倒して、二人もやってくるのかな。


 タツコが、俺の革ジャンの襟を引っ張る。何か様子が変だな。まあ、いつも噛み付いたり、躾のなってない竜の子供だけども。


 タツコが自分の翼を見せる。


 血が……ついてる。

 タツコに怪我はない……。


 タツコだけで、二人が来る気配が……ない。この血はもしかして……。


「タツコ……この血は? 二人のどっちかの血!?」


 タツコが激しく頷く。


「む、無理だよ! 俺が、行ってもなんにもならない! 正直、お前だってちょっと怖いんだから!」


 タツコが、リーゼントをついばみ始める。


「や、やめて! リーゼントはやめて!!!」






 


 


 

 

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