第3話 俺がリーゼントなワケを聞いてくれ

「君、青の家のこと、どれくらい知ってる?」

「青い髪してて、竜倒してくれる程度」

「田舎者はそれが、せいぜいか……」


 リングは、ちょいちょい、無自覚にそういうところがあるよ! でも話しを止めるのも面倒なのでスルーしてあげる。


「竜討伐御三家の中でも、赤の家が最強といわれ、名門。青の家と黄の家は2番手だ」


 それは、なんとなく、そんなイメージだったかな。


「でも経済力じゃ違うんだ。青の家は赤の家よりも組織立ってて、育成のための訓練校も多く経営している。学校は手広く広げてて、アート系の科目まである。青の家ホールディングスで数々の事業も展開している」


 ホールディングス!? リングはとんだお坊ちゃんなのか。リングの性格も、なんか納得。


「それでも、討伐隊の入隊希望者は、みんな赤の家志望!!! 青の家は滑り止め。青の家の方が福利厚生も何もかも赤の家よりいいのに! 赤の家ブランド恐るべし。巨大竜を封印するためには御三家で協力しなくちゃいけないのに、結果的にはライバル関係」


 まあ、そうなるよね。


「巨大竜封印のターンに各家の跡取りとして生まれたのが俺ら。黄の家に生まれたのはミミって女。ミミはちょっとメンヘラだけど、竜討伐のために生まれたような女だ」


 なんか、聞き捨てならない単語がチラリと聞こえたような。


「なんと言っても評判なのは赤の家のトーリだ。3才でダンジョンにも挑んだ超がつく程の天才! 巨大竜の封印のための巡り合わせで生まれたような男だ」


 トーリのこと嫌いっていってたのに、持ち上げるなー。


「色々あって、変態になっちゃったけど」


 あ、やっぱり違った。


「親父は俺がトーリに負けるのを許さなかった。トーリにだけは負けるなといわれ続けた。だけど……、俺とトーリは仲が良かったんだ」


 へー!!! 端々での持ち上げはそれか。


「トーリは話してて普通に面白かったし、境遇も似てたから、自然と仲良くなった。親には秘密でよく遊んだんだ。あの時までは仲が良かったんだ」


 うん?来たな。


「伝統の初陣であるダンジョンへの挑戦。トーリが挑んだのは3才だ。でも、それはトーリが既にそれだけ魔法が使えたからだ。親父は焦った。俺にもとにかく、すこしでも早く挑戦させたかったんだ。でもトーリが変なんだ、普通じゃない。親父にしては我慢に我慢して、俺が10才の時に挑戦させることに決めた。それでも早すぎるんだ」


 トーリといい、リングといい、大切な人材なんだから、そのダンジョンの挑戦、もうちょっと考えた方がいいよね。


「俺はトーリに相談した。そうしたらナイショで一緒にダンジョンに行ってくれるって言ってくれたんだ。既にトーリは竜好きの変態になってたけど、魔法の腕は10才でも大人顔負けだった。実戦も多く積んでいた。俺は安心した。他でもない、信頼できるトーリが言ってくれたんだ」


 だんだん話しが見えてきたな……。


「親父の見栄でダンジョンのレベルも高かった。でも安心だ。トーリがいるんだから。任せてッ! なんて調子の良いことまで言っちゃってたな。だけど、ダンジョンでトーリは竜に夢中で、俺を置いて何処かに行っちまった……」


 今の状況と、まったく同じ!!!


「すごい魔物が襲ってきて……、なんとか逃げ切ったものの、俺はそれから魔物恐怖症になってしまったんだ!!! 普通の人が平気なレベルの魔物もダメ!」


 竜討伐一家なのに、竜オタクと、魔物恐怖症の跡継ぎ……。


「自分の力じゃなくて、トーリに頼りきった俺が誰よりいけないってのは、分かってるんだ。だけど、とにかく竜討伐なんてしたくない。で、俺は筋トレと、リーゼントに夢中になった……」


 う、うん……後半は意味不明だけど。


「あれから、もう10年もたっちまう。あっという間だったな。実戦経験はゼロ……。俺、あの時のまま、もう20才になるよ」


 リングが、のろしをあげるための火を悲しそうに、見つめる。


「親父はもう、俺の事あきらめてる。でも、やっぱり赤の家が絡むとね。俺、こんなんだからさ、トーリみたいに凄くないから……」


 リングが、のろしをボーッと見上げる。


「だから、勇者くらいは親父のために先に見つけてあげたかったんだけどさ……」


 なんか、リングに同情してきちゃったよ。


「大丈夫だよ! 勇者は見つかってないよ! こんなもん、バッタもんだし! 万が一、万が一だよ? 僕が勇者だったら、リングが僕を見つけたって言ってあげる!」

「それじゃあ、またズルになっちゃうだろ?」

「いーよ、いーよ! ズルじゃない! 今だって、トーリはどこか行っちゃってるんだもん!」


 ちょっと、悲しそうにリングが笑っていう。


「フフッ、ありがとうな」


 茂みから、ガサガサ音がする。ヤバイ!!! とうとう、竜、釣ちゃったかな!!!



 茂みから出てきたのは……ピンクの髪!!!トーリだ!!!


「あ、いた!!! ソイ君!!! もう、迷子になっちゃだめだよ!」


 ちがーうッ!!! でも……


「のろしに気付いてくれたんだね! トーリッ!」


 タツコがトーリにガブリと齧りつく。

「ハハハッ!!! タツコの甘噛はイタイなーッ」


 ちがうッ!!! 甘噛じゃない!!!


「うん? のろし? あれ! 親友!!! リングーーー!!! 久しぶり!!!」


 僕達二人と一匹は、トーリに叫ぶ。


「違うーーーッ!!!」


 でも良かった。竜じゃなくて、トーリが釣れて。これで、この森から出られる。


 僕が言ったのにトーリがスルーしたから、リングがまたトーリに問いかけてくれる。


「トーリ、さすがに、のろしに気付いてくれたんだな」

「違うよ。竜がこっちに来たから」


 え……。


 トーリが、僕らの後ろを指差す。


 恐る、恐る、振り返ると、竜が……いるッッッ!!!


「その子めちゃくちゃ強くて、追いかけていたような、私も逃げていたような」


 トーリが逃げる程の竜なの!?


 僕とリングは、また二人揃って叫ぶ。


「ギャーッッッ!!!」




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