第2話 完☆璧!

 僕にビビりと言われたリングが、寂しそうに僕を見る。

 そして、今度は急に目を丸くて、タツコを指さす。


「その竜の子供! もしかして、トーリのッ!?」

「トーリのこと知ってるの? それもそうか、討伐一家だもんね。僕らトーリとはぐれちゃったんだ」

「知ってるも何も! 大嫌いだ! あんな奴!!!」


 タツコがリングの手にガブリと齧りつく。

「イッタッ!!! 離して!!!」

「ダメだよ。タツコ」


 僕がいうと、タツコが、齧るのをやめて僕の肩にのる。

「トーリの事を悪く言われて怒ったんだね。タツコは優しいね」


 僕がなでてやると、タツコが僕に頬ずりする。……カワイイ!!!


「え……。人を齧って褒めるのはどうなんだろう……。てか、トーリにも全然懐いてなかったのに、凄いな。そういえば、君のこと守ろうとしてたし。君なんなの?」

「僕? 僕はソイ」

「う、うん。名前は分かった。そうじゃなくて……うん? そういえば? 剣のある祠がこの森の近くの村で? トーリが連れてるってことは???」

 

 リングはもう一度、僕を見る。そして僕の剣を指さす。

「あーーーッ!!! その剣!!! もしかして!? 勇者の剣!? 君、そうなの!? また、トーリに先を越されたぁ! 親父に何て言えばいいんだ!!!」

 

 僕は手をひらひらと振って否定する。


「ああ、コレ? 違う、違う。ただのバッタもん。タツコが僕に懐くから、研究したくて、その口実に僕のことを勇者ってことにトーリがしただけ」


 リングが心底安心したのか、深く息を吐く。

「良かったぁー。トーリがもう勇者見つけちゃったのかと思った。赤の家には負けるな、特にトーリには負けるなって親父がすごくて。俺、この辺りの村に勇者の剣の祠があるって聞いて来たんだ」

「それならコレだよ」


「うん? え? 抜いたのは?」

「僕」


 リングが僕を指差してのけぞる。


「じゃあ、やっぱり!!!」

「抜けたっていうか、土台の経年劣化だと思う。掃除してたら抜けちゃったんだ」

「………。そ、そうだよな!!! 祠は他にもある。君とは限らない! いや、認めない!!! 全然ッ、勇者っぽくない!」

「うん。違うから、それでいいよ」


 さて、それにしても、どうしたものかな。どうやって、この窮地から脱したものか。


 リングは慌てっぱなしで、討伐一家でも期待できないし。やみくもに歩いても危険。だけど、とにかく、この森から早く抜けないとな。


 僕は辺りに落ちている木の枝を集める。

 そして、タツコに話しかける。


「タツコ、ちょっと、ここに火を吹いてもらっていい?」


 タツコが「キュッ」と、返事をしたあとに、火を吹く。


 煙が森の木々を超えて高く、登っていく。


「ありがとう、タツコ。お利口さんだね」


 タツコの頭を撫でると、タツコが嬉しそうに「キューッ」と鳴く。


「本当によく懐いてるな。今までのトーリはいったい……。てか、何やってるの?」

「のろし」

「ああ! トーリが見つけてくれるってこと?」


 僕はうなずくでも、首を振るでもなく、首をかしげる。


「うーん、半分は当たってるかな。トーリの、あの感じじゃ竜に夢中で、こんなものに気付かない」

「じゃあなんで?」


「竜は頭がいい。竜がのろしを見れば、捕食対象である人間がいるって分かるじゃん? そして僕らを食べようと思って、やってくる」

「どこに?」


「いや、だから、ここにだよ」

「は!? 頭おかしくなったの!?」


 リングがあわてて、のろしを消そうとする。僕はそんなリングを止める。


「失礼だな! ちょっと待って! リング! 最後まで、説明を聞いて! 超、頭のいい、僕の作戦を!」


 母さんが、いつも僕のことを、やれば出来る子って言ってた。本当にそうだったみたいだ!


 僕の言葉を聞いてリングが、のろしを消すのをやめる。


「作戦!!! すごいじゃないか! 少年!!!」



 リングの期待の眼差しがすごい。なんだか、照れるな。



 そんなリングに、僕は作戦の内容を伝える。


「竜が釣れれば、竜を追いかけまわしてるトーリも釣れるでしょ! ね!? 完☆璧!」


 僕は親指を立てて、リングに自慢気に説明してあげた。

 

 リングが僕の真似をする。

「完☆璧!」


 分かってくれたか、良かった、良かった。


 と思ったら、リングが叫ぶ。

「じゃなーーーーーーいッ!!! 却下ッ!!! 君! やっぱ頭おかしい! やっぱ子供だわ!」


 リングが、のろしを消そうとする。そんなリングを僕は止める。


「リング! これしか、ないよ! 僕らだけじゃ、さっきのキノコ程度の魔物でも、やられちゃう! あんなのが、うようよ集まる前に、この森でなくちゃ! トーリを見つけないと、どうにもならないよ!」


 涙目でリングが僕を見る。そんなリングに僕は少し厳しい口調でいう。


「他にないでしょ!」

「ないの?」

「ない!!!」


 のろしを見ながら、竜を、いや、トーリが現れるのを、リングと二人でボーッと待つ。


 無言で二人でのろしを見てると、リングが話し出す。


「竜討伐一家なのに、俺が何でこんな感じか話そうか?」

「うーん……あんまり興味ないかな。でも、ヒマだから、聞いてあげてもいいよ」

「あのさ、俺さ、君の中でさ、かなり下の地位に置かれつつあるよね……」


 リングが、シブーイ顔を僕に向けてくる。もう面倒だなー。僕は、仕方がないので無理矢理に笑顔を作ってあげる。

「聞きたいー!!! 聞きたいなーッ!」

「そうか! そうか!」


 リングは満足そうだ。そして、討伐一家のことや、トーリとの関係なんかを話し出した。


 

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