竜を操る者
第1話 俺のリーゼント、崩すわけにいかないじゃん?
街道から離れ、今僕は深い深い森を彷徨っている。
なんと……タツコと僕の二人だけで。
トーリが「こっちが近道だ!」とかなんとかいって、明らかにヤバそうな森に入っていったからだ。
あげく「あの竜見た!? あの色見た!? 新種かな!?」と言って、その竜を追いかけて行ってしまったのだ。
僕達を置いて。
マジで……。
村を出てまだ一日たってないんだけど……。このまま夜になったら、絶対にやばい。
トーリのバカ。絶対に、端から竜探ししたかっただけじゃん。
僕の隣をパタパタ飛ぶタツコに話しかける。
「いつもこんな感じ?」
「キュッ」と、小さい声を出してタツコが頷く。
僕はため息をつく。そりゃ嫌われちゃうよ。トーリ……。
すると近くで叫び声がする。人だ!!!
僕は慌てて駆けつける。
トーリくらいの年齢の男性が、キノコの形をした魔物に襲われていて、腰を抜かしている。
キノコの大きさは、その男性の倍以上に大きい。
デカイな……。やっぱり、この森やばいよ!!!
畑に出るのは、せいぜい膝丈くらい……。こんなにデカイ魔物は知らない。トーリはいないし!
すると、男性が僕の存在に気付く。
「助けてッ!!!」
なんて、弱々しい声!!!
男性が駆け出して僕の背後に隠れる。
キノコの魔物がこっちに向かってくる。
隠れた男性が僕にいう。
「その剣で、サクッと倒して!」
隠れた男性を見ると、筋肉質で屈強そうな青年だ。
「えええ! お兄さんの方が強そうなんだけどッ!」
「ムリムリッ!!! あんなデカイのムリッ!!!」
またこんな剣を持ってるばっかりに……。
男性が震えている。
それにキノコは待ったなしで迫ってくる。
キノコの魔物がグワッと口を開ける。
捕食系ッッッ!!!
男性と、僕は悲鳴を上げる。
するとタツコがまた僕を守ろうと前に飛び出す。
もう本当に涙が出そうッ!!!
僕はタツコを抱きかかえ、男性に渡す。
「ちょっと! 見ててください!」
倒せなくていいッ! 威嚇できればそれでッ! もしかしたら、運が良ければ、逃げてくれるかもしれない!
僕は手早く木に登る。キノコの魔物が動く僕を追う。
そしてキノコより高い位置から飛び降りて、思いっきりキノコの頭上に蹴りを入れる。
それから、なんとか着地する。うーっ、脚がジーンってするやつの激しいバージョン!
キノコの様子を注意深く見る。頼む! 蹴りが効いてますように!
キノコの頭上が大きく凹んでいる。そして大きく叫び声を上げたあと、キノコはその場を去っていく。
よ、よかった。な、なんとか!? 窮地は脱したかな!?
まだ、ちょっと脚がジンジンするものの、大丈夫そうだ。僕はお兄さんとタツコの元にもどる。
男性からタツコを受け取る。
心配そうなタツコの頭を撫でてやっていると、男性が、歓喜の声をあげる。
「君! すごいね!!! 助かったよ! ありがとう!!!」
あんまりにも喜んでくれるので、少し僕も照れてしまう。
「いやー、もう、一か八かですよ」
男性と握手したあとに、男性をよく見る。
白のランニングに革ジャン、ヘアスタイルはリーゼント。
そして、その髪の色は、珍しい青色だ。
うん? この男性はもしや……。
男性が僕の様子に気付いたのか、腰に手をあて、もう片方の手は、そっとリーゼントに触れてポーズをとる。
「フフッ。気付いてしまったようだね……。竜討伐御三家が青の家、名はリングだ!」
僕は開いた口が塞がらない。
やっとのことで、声を上げる。
「お兄さん、めちゃくちゃ強い人じゃんッ!!!」
そういうと、なぜか、今度はリングが照れる。
「褒めてないよ! お兄さんが戦ってくれれば良かったじゃんッ!!!」
するとお兄さんが、リーゼントを整えながらいう。
「俺のリーゼント、崩すわけにいかないじゃん?」
なっ、何なの!? この人! リーゼントのために人命を犠牲にするの!? 本当は強いのに剣を背負ってるからって、子供に任せて!?
怖がっていたのは、全て演技だったってこと!?
トーリを見れば分かる。竜を倒せる討伐一家にとって、あんな魔物、朝飯前の、朝飯前じゃないか!
変態でも、唾液でベタベタになっても、臆せず戦うトーリが素晴らしく思える。……いや、違う、そもそもこんなことになってるのはトーリのせい!
世の中は、なんて恐ろしいんだ。村の人は牧歌的で良い人ばかりだ。
そんな世間知らずな僕をあざ笑うかのような、厳しい社会。なんてことだ……村を出てすぐにこれか。
魔物だらけなのは、深い森ではなく社会というわけか。
竜討伐一家なんて、やはり所詮セレブ集団。平民の命よりも、自分の大切な髪が……
「ギャーッ!!!」
僕がそんな思考を巡らせていると、リングが悲鳴を上げて、僕の背後にまた隠れる。
見ると村の畑でも出てくるサイズの膝丈くらいのキノコの魔物が目の前にいる。
リングが、目をそらして、震える指でその魔物を指差している。
僕はそのキノコも踏んづける。キノコが、テテテッと足早に逃げていく。
お兄さんが僕の背後から出てくる。
さっきまで腰が引けてたのに、リングはポーズをとり、そして、カッコよく自分のリーゼントに触れる。
「俺のリーゼン……」
「ただのビビリじゃんッ!!!」
僕は食い気味に突っ込まずにはいられない!
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