第6話 惚れ薬
あのお茶会の日から三ヶ月後、エミリは再び魔女のお膝元である町を訪れていた。
真っ直ぐに酒場へ向かう。すると、
「マスター! もう一杯じゃ!」
「へいっ! 魔女様!」
昼間から呑んだくれている魔女が居た。
「お久し振り」
「お~! お主、確かエミリじゃったな! 今日はまたどうしたんじゃ?」
「私のこと覚えていてくれたのね」
「かかか、そりゃもう、金払いの良いお客は忘れんよ」
エミリは苦笑して、
「調子良いのね。でも良かった。ここに居てくれて」
「ん? どういう意味じゃ?」
「あなたに会いに来たのよ。山を登らずに済んで助かったわ」
「妾にか? またなんぞ薬でも欲しいのかや?」
「違うわよ。ちょっと話がしたかっただけ」
「そうかそうか、まあ座れ。何か呑むか?」
「じゃあ、同じモノを」
「マスター! 今日は妾の奢りじゃ!」
するとマスターは気不味そうに、
「魔女様、申し訳ありません。そろそろお代の方が...」
「なに!? う~む...困ったのじゃ...」
エミリはため息を一つ吐いて、
「私が奢るわよ」
「ホントか!? いやぁ、お主良いヤツじゃの~! マスター! 妾にももう一杯!」
「へいっ! 喜んで!」
「ホント調子良いんだから...」
◇◇◇
「するとヤツらはあの後、すぐに別れたと?」
「えぇ、あなたの別れ薬を飲ませるまでもなかったということね。依頼を取り消しておいて良かったわ。薬を使っていたら、少しは罪悪感に囚われたかも知れないもの」
「確かにそうじゃな。そもそもが親友の婚約者を寝取っておいて、そのまま幸せになれる道理もあるまいて」
「えぇ、その通りよ。悪い噂ほど流れるのは早いから、あの二人はあっという間に孤立したわね。それに耐えきれなくなったのか、付き合いだして一ヶ月も経たない内に別れたわ」
「自業自得じゃな」
「全くね。しかも男の方はホント最低なのよ。別れた翌日、何食わぬ顔て私に会いに来て『俺が悪かった。ヨリを戻してくれ』とかほざきやがるのよ。頭に来たから叩き出してやったわ」
「かかか、どのツラ下げてそんなこと言えるのかってヤツじゃのぅ」
「ホントよ! あんなヤツ別れて正解だったわ!」
「それが分かっただけでも良かったと思うことじゃな。さあ、今日はじゃんじゃん呑め! イヤなことは忘れるんじゃ!」
「私のお金だけどね...」
その日、エミリは初めて記憶が無くなるまで酒を呑んだ。
◇◇◇
「ハァハァ...やっと...着いた?...ハァハァ...ここが...そうなのか?」
その男は噂を聞いてやって来た。『天望の魔女』が作る魔法薬を求めて。
「廃墟になった城跡しか見えないんだけど...本当にここで合ってるのか?」
「合っとるぞ」
「ヒイッ!」
「び、ビックリさせないでくれ!」
「かかか、そりゃ済まんかったな。お主は天望の魔女に会いに来たんじゃろ?」
「そうだけど...」
「妾がその天望の魔女じゃ」
「あんたが...」
「それで用件は?」
「惚れ薬を作ってくれ」
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