第5話 決断

「悩んでおるのか?」


「なんでもお見通しなのね...その通りよ」


 苦笑しながらエミリはそう言った。


「自分の気持ちが分からなくなってきたわ。私が本当に望んでいることはなんなんだろうって」


「悩むだけ悩むが良い。さすれば自ずと答えは見付かるじゃろ」


「そうするわ。そろそろ失礼するわね」


 そう言って立ち上がり掛けたエミリに、魔女が最後こう言った。


「もしお主が別れ薬なぞ要らんという結論に達したなら、お主に渡した石を砕けば良い。それだけで妾に伝わるでな。もっとも前金は返さんがな。もう使ってしもたし。かかか」


「考えとくわ...」


 今度こそエミリは席を立った。



◇◇◇



 それから数日後、エミリは自宅に元婚約者と元親友(だと思っていた)を招いて、お茶会を開いていた。

 

「や、やあ、エミリ。久し振り...今日は招待してくれてありがとう...そ、その、本当に申し訳ない...」


 そう言って媚び諂ったような笑みを浮かべるのは、元婚約者のルイスである。悪いことをしているという自覚があるからだろうが、まるでご機嫌伺いでもするような卑屈な態度が癪に障る。婚約者で居た時はもっと堂々としていたはずなのに、そのギャップが激し過ぎる。


 (私、なんでこんな人を好きになったんだろう...)


 エミリは冷めた目で元婚約者を見詰めた。そしてもう一人...


「え、エミリ、ご、ごめんね。わ、私、す、好きになっちゃいけない人だって、わ、分かっていたはずなのに...い、いつの間にか好きになっちゃってて、も、もう止められなくて...本当にごめんなさい...」


 涙ながらに語っているのは、親友だと思い込んでいた女、ヘレナである。ちなみになにかあるとすぐに泣く。男からすれば庇護欲をかき立てられるのかも知れないが、女からすればこれ程安っぽい涙はないと思う。


 いつまでも謝りながら泣き続けているヘレナを、ずっと慰めているルイスという三文芝居を、いつまでも見ているのに耐えられなかったので、早々にお開きにした。30分も経っていないだろう。


 逃げるように去って行く二人には目もくれず、エミリは二人が飲んだお茶のカップを凝視していた。


「お嬢様?」


 いつまでも席を立たないエミリを訝しんで、侍女が声を掛けてきた。


「...いいわ、下げて頂戴」


「畏まりました」


 自室に戻った後、エミリは魔女に貰った赤い石をハンマーで粉々にした。


 (あの二人がどうなろうと私には関係ないわ。好きにすればいい。未練は断ち切ったわ)


 エミリは清々しい気分になっていた。

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