第3話 酒場にて

 ロープウェイの入口は、魔女の家のすぐ側にある大きさ木の根本だった。


「さぁさぁ、遠慮せず乗るが良いぞ?」


 そう言われてエミリが乗り込んだゴンドラは、木製で天井は無く窓も無く手摺だけが申し訳程度に付いているという、とてもシンプルな造りのモノだった。


「これ、大丈夫なんでしょうね...落ちたりしないわよね...」


「かかか、心配するでない。では行くぞ」


「ヽ(ヽ゚ロ゚)ヒイィィィ!」


 ゴンドラはゆっくりと動き出した。最初、怖くて目を閉じていたエミリは、音も無く揺れも無く、スムーズに動くゴンドラに次第に恐怖心が薄れ、少しずつ目を開けて見た。


「こ、これはっ!?」


 圧巻だった。絶景だった。山の上から見下ろすように、360度の大パノラマが広がっていた。すぐ近くには先程通って来た町が見える。遠くの方にはあれは海だろうか? キラキラ光る水面が見える。更に遠くには鬱蒼と繁る大森林がみえる。


「なんてキレイ...」


 エミリは感激して泣きそうになっていた。


「かかか、ちょっとしたもんじゃろ?」


 やがてロープウェイはゆっくりと下りて行って、森の中にある大きな木の根本に着いた。


「この木が地上の出入口になっとるんじゃよ」


 ロープウェイから下りたエミリは、まだ感動していた。時間にして20分くらいの空の旅だったが、とても短く感じられた。


「凄かったわ...また乗ってみたい...」


「かかか、お主が常連になってくれたら考えんでもないな」


 そう言われてエミリは「うぅっ!」と呻いてしまった。エミリの実家はそれなりに裕福な貴族ではあるが、今回魔女に支払った金額をまた捻出するのは厳しいモノがある。


「さて、妾はこれから一杯引っ掛けるが、良かったら一緒にどうじゃ?」


「昼間っから飲むの?」


 エミリが顔を顰める。


「纏まった金が入ったからの。飲まずにおれんて」

 

 そう言われてエミリはハッと気付いた。


「それ、私のお金じゃないのぉ~!」



◇◇◇



「喜べ皆の衆、ここは妾の奢りじゃあ~! どんどん呑め呑め~!」


「さすがは魔女様! 太っ腹!」「ゴチになりやす!」「魔女様に乾杯~!」


 酒場で盛り上がる酔っ払いどもを冷やかな目付きで見渡しながら、エミリはため息を吐いていた。


「どうした? あんまり呑んでおらんようじゃが? 遠慮せんとたんと呑め!」


「いや、遠慮もなにも私のお金だっつーの...」


「かかか、今は妾の金じゃ! おい、マスター! じゃんじゃん酒を出せ! あとツマミもな!」


「へいっ! 魔女様! 毎度ありぃ!」


「それと余った金は分かってるな?」


「へいっ! いつもありがとうございます!」


 それだけ言うと魔女は、また酔っ払いの中に戻って行ったが、そのやり取りにエミリが食い付く。


「余った金? それってどういうこと?」


「あぁ、いつものことさ。魔女様はああやって豪遊した後、余った金を孤児院に寄付してるんだ。宵越しの銭は持たねぇって言ってな。俺も昔は孤児院に居たから、あの魔女様にはエライ世話になったもんだよ。あそこで騒いでる連中も、みんな昔から魔女様の世話になってんだ」


「そうなのね...」


「この町に住む人間なら、魔女様の世話になってない者の方が少ないくらいだ。病気や怪我した時なんか無償で薬くれたりする方だからな。みんな感謝してるよ」


 魔女の知られざる一面を垣間見て、認識を改めるエミリだったが、そこでふと気付く。


「ってか、私が払ったお金、全部使い切る気!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る