第2話 真の願い
別れ薬が欲しいというその女は名をエミリと名乗った。
エミリ曰く、親友だと思っていた女友達に婚約者を取られたので、その報復として厚顔無恥なその二人の仲を引き裂いてやりたいということらしい。
「なるほどの。事情は良く分かった」
「作れる?」
「もちろんじゃ。ただし条件がある」
「どんな?」
「別れさせたい二人の体の一部が要る。頭髪でも爪の先でもなんでも構わん。手に入るかの?」
「それは...難しいわね...唾液とかじゃダメなのよね?」
「唾液でも構わん。要は相手を特定出来ればいいんじゃ」
「それなら何とかなりそう。二人のお祝いをしたいとかなんとか言って、お茶会に誘えば、私への負い目もあるでしょうから断らないと思う。そこで二人が使ったカップを手に入れられるわ」
「それは重畳。ではそのカップを手に入れたらまた来るが良い。それまで他の材料を用意しておくでの」
「またこの山登るの...」
「かかか、大事なお客人にそんな苦労はさせんよ。この石を渡しておこう」
「キレイ...ルビーみたいね。これはなんなの?」
「真実の森を抜けるための道標のようなものじゃよ」
「真実の森って?」
「お主がここへ辿り着くまでに通って来た森のことじゃよ。あの森で道に迷わなんだか?」
「えぇ、迷ったわ。何度も同じ所をグルグルと」
「その間、森に試されておったのじゃよ」
「なにを?」
「お主の願いが、真に心の底から願っていることなのかどうかじゃ。あの森は心を見抜く」
「心を...」
「迷っていたのではないか? 心に迷いがある者はここに辿り着くことは出来ん」
「確かに...言われてみれば少し迷っていたかも知れないわ...」
「その迷いを振っ切ったからこそ、お主はここに辿り着いた」
「そうね...もう迷いはないわ」
「結構、では前金としてこれだけ払って貰おうかの」
「高いわね...」
「その石の値段も含めてじゃ。これでもサービスしとるんじゃぞ?」
「分かったわよ、払えばいいんでしょ払えば。その代わり、出来ませんでしたなんて言ったら只じゃおかないわよ? 覚悟なさい」
「かかか、分かっておるとも。毎度ありぃ」
「調子いいのね...」
二人が家の外に出ると雲行きが怪しくなっていた。山の天気は変わりやすい。
「ひと雨来そうじゃな」
「ヤダ...雨具用意してないわ...」
「仕方ないのう。特別サービスじゃ。ロープウェイで送ってやろう」
「ロープウェイ!? そんなのあるの!?」
「あぁ、あるぞ。妾の移動用にな」
「何よそれ、ズルいじゃない! それがあればあんな苦労しなくても登って来れるじゃない!」
「かかか、それは無理というもんじゃ。妾の魔力がないと動かんし、隠してあるから誰にも見付からん。それに森を抜ける試練は必要なことじゃからな」
「なんか納得いかない~!」
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