天望の魔女

真理亜

第1話 別れ薬

遥かその昔、戦乱の世に難攻不落と謳われた山城があった。


天望てんもうの城』と呼ばれたその城は、数多の戦いをくぐり抜け、ついに一度も攻略されることなく、その国が内乱で滅んだ後、静かにその役目を終えた。


 その城跡にいつの日からか、一人の魔女が住むようになった。


 その魔女は『天望てんもうの魔女』と呼ばれ、代々、その地に住まう者達にとって畏怖の対象となっていた。その魔女が作る魔法薬は良く効くと評判になり、やがて噂を聞き付けた者達が魔法薬を求めてやって来るようになった。


 そして今日もまた一人...



「ハァハァ...やっと...着いた?...ハァハァ...ここが...そうなの?」


 その女も噂を聞いてやって来た。『天望の魔女』が作る魔法薬を求めて。


「廃墟になった城跡しか見えないんだけど...本当にここで合ってるのかしら?」


「合っとるぞ」


「ヒイッ!」


 いきなり後ろから声を掛けられた女は飛び上がった。


「び、ビックリさせないでよ!」


「かかか、そりゃ済まんかったな。お主は天望の魔女に会いに来たんじゃろ?」


「そうだけど...」


「妾がその天望の魔女じゃ」


 そう言われた女は当惑した。目の前に居る人は、確かに魔女っぽい格好をしている。大きな三角帽子に黒いロープ、手には杖を持っている。足元には使い魔だろうか、黒猫が佇んでいる。だが...


「本当に魔女なの?」


「なんじゃ? 疑うのか?」


「だってその...若いじゃない!」


 そう、見た目はどう見ても少女としか思えない。せいぜい15、6歳だろう。


「かかか、ヨボヨボの婆さんとでも思っておったか?」


「えぇ、まぁ...大体、魔女ってそういうイメージでしょ?」


「まぁそれは否定せんがの。そもそも不老不死の魔女にとって見た目や年齢など無意味じゃよ」


「そういうものなのね...」


「それでお主は妾の魔法薬が欲しくて来たんじゃな?」


「えぇ、そうよ」


「では話を聞こうかの」


 そう言って魔女が杖をひと振りすると、何もなかった城跡に突如家が現れた。


「えっ? これって...」


「魔法で隠してあるんじゃよ。さあ、中へ」


 中に入ってみると、そこはまるで薬屋のようだった。様々な魔法薬の瓶が所狭しと棚に並んでいて、一体何種類あるのだろかと呆気にとられてしまう。


 テーブルの上には魔法薬の材料だろうか、動物の骨や皮、牙などが乱雑に積まれていて、見たこともない植物の葉っぱや毒々しい色のキノコなどがが更にその上に積まれている。今にも崩れてきそうだ。


「散らかっていて済まんな」


「い、いえお構い無く...」


 散らかっているというレベルを超えてるとは言えなかった。


「それで用件は?」


 女は居住いを正してこう告げた。


「別れ薬を作って欲しいの」



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