第17話修行④
「で、師匠…俺たちは今どこにいるんです?」
ゼノンは相変わらず目隠しをされたままである。その状態でファナに連れられてどこかを歩いていた。
(道が傾斜だな…。加えて空気が澄んでる。太陽の光もあんまり感じないってことは影になってることか…。あとは枝が折れるような感覚と土の感触…。ここは間違いなく山だろうな。)
ただ何故か違和感がある。なにが?と言われたら素直に答えることは出来ないけれどいつもの感じと違う。感覚のひとつ…第六感が抜け落ちたような……。
(いつもなら師匠の気配も掴めるのに今は掴めない…)
「そう聞かれて素直に答えると思うの?……さぁ、着いたわ」
着いた…ということで歩みを止めたゼノンは自分の目にかかる目隠しを取ろうとするが……
「ストップ。何取ろうとしてるの?」
「え゛?」
「今、私たちは山の頂上にいるの」
「場所…言っちゃうんですね……」
「無駄な口を聞かない。この山は私が保有してる山よ。基本人も立ち寄ることもないから安心しなさい」
何を安心すればいいのだろうか…?そう思っても口に出すだけ無駄なためにぐっと堪えた。
「この山には私が手掛けた侵入防止の
「はぁ…。理解は出来ましたけどそれがどうしたんです?」
山の危険度はよく分かった。やっぱりこの感覚は間違いじゃなかったんだ。人が立ち寄らないんじゃなくて立ち寄れないってこともな。侵入防止って…そんなに大事なもんがここにでもあるのか?
「ここから1人で山を下りなさい。その状態でね」
「……なるほぉど!」
そういう事か…。俺は今どこにいるのかも分からない。マジでこの山に関する情報はない状態だ。そこから魔物が跋扈し、トラップがそこら中に仕掛けられているこの山を下るってのは相当ムズい…。加えて目も封じられたままだ。これではただ下るだけで大怪我につながりかねん。
「ここは音がよく響くからエコーロケーションの練習には最適ね。ついでに…その目隠しはあなたが何をしても取れないようにしたわ。剣で切りさこうと着れないわ」
なんだそれ?この目隠しは鉄で出来てんのか?まぁ現に今は光さえ目で感じることが出来ないんだけどな。
「山を降りたと思ったなら、もしくはギブアップと思うなら私を呼びなさい。すぐにその目隠しの封印を解くわ。それじゃ私はゆっくりとティータイムしてるわ」
「了解!!血が滾ってきた!!」
それからすぐにファナの声が消えた。僅かに感じていたファナの気配も今は完璧に消えてしまった。
「さてさて、どうするかね?」
ゆっくりと歩を進めて山を降り始めたゼノン。さっきまでとは違い、目隠しの状態でも特にバランスを崩すことなく歩くことはできるようになっていた。だが、どこを歩いているのか、道まっすぐか、周りには何があるのかは一切として分からない。
気配が分かると言ってもそれはあくまで感情がある人間や動物に限られる。植物の気配まではゼノンにはわからなかった。
「おっんわぁ!!」
なにかに引っかかりその場に崩れ落ちるゼノン。ゼノンには見えていないが、ゼノンが引っかかったのはただの木の根である。
(クッソ!普段どれだけ目に頼っていたかがよく分かる!!)
目隠しがなければ仮につまづいたとしてもコケるようなことは無かった。それが目が見えなくなった瞬間にこのザマである。
すぐに立ち上がり、とりあえず地面が下っている方へと足を進め。が、
ピン!
「は!?」
普通に歩いていると糸のようなものに引っかかる。…と思っているとすぐにビュォォウという風切り音が聞こえてくる。
「がっ!!!」
次に来たのは衝撃。まるで岩に殴られたような衝撃がゼノンを襲う。目も見えず第六感も頼りにならなかったゼノンはそれを避けることが出来ずに受け身も取れず吹き飛ばされてしまう。
(今のは……師匠の罠か!?)
瞬時にゼノンは理解した。実際、その通りである。今のはゼノンがファナの仕掛けた糸を引いたことにより発生したトラップでゼノンは高いところから振り下ろされた丸太に襲われた。
ゴロゴロと止まることなく落下を続けるゼノン。
(クッソ!とりあえず止まらないと!!)
そう思い、ゼノンは手を伸ばし、なにかに捕まろうとするが……
「は?」
何かに触れた瞬間に底が抜けてズボッと腕が吸い込まれる。
そしてすぐに体が宙に浮く感覚に襲われた。
(そういうことか!さっき俺が触れたのは落とし穴!!んで今はその落とし穴に引っかかって落下中!)
だが、それ故にゼノンは恐怖に陥る。
(ふ、深いのか!?ってか地面までどれぐら…)
「がはっ!!!」
目が見えなければ地面までの距離すらもわからずまたも受身をとる事が出来ずに地面に直接衝突してしまう。衝撃は骨や筋肉のみにあらず内臓にまで響き渡る。それを表すかのように吐血する。
(や、やべぇ!!これマジで殺りに来てる!!)
山のトラップも十分に危険だが高所故の空気のうすさも脅威となりゼノンに襲いかかっていた。
「げっほ!げほ!さてさて、どうやって下山したものかね?」
何とか落とし穴からの脱出に成功したが、まだ歩き始めて1時間も経っていないというのにこのダメージは深刻だ。
ここからどう罠をくぐり抜けて下山できるかを模索するしようするが……すぐに頭を振る。
「違う!何を考えてんだ!俺は!!」
すぐに頬を叩いて意識を切り替える。
(ここには"エコーロケーション"を身に付けにきたんだろうが!!下山するために俺は修行してるんじゃねぇ!)
1度深呼吸をして頭を落ち着かせる。そして様々な考えを頭に巡らせる。
(動かない限りは罠とかにかからないはずだ。っていうかそうだと信じたい!師匠は無茶ぶりをさせることはあるが、無理なことをやらせるようなことはしないはずだ。つまりエコーロケーションさえ身につければこの山の下山なんて余裕でできるはず)
『"エコーロケーション"。反射音に対する感度により、物体との距離、大きさ、密度までわかる聴覚の能力よ。本来は目が見えない人に限られるけど、あなたにはそれを習得して貰うわ』
ファナは確かにそう言った。ここにヒントがあるはずだ。
(反射音……。感度………か。音っていうのは確か空気の振動だ。だとするなら反射音っていうのはその音の振動が物にあたって反射することか。それを俺が聞き取ることによって物体の距離がわかるってことか……)
なるほど。だとすると耳が良いということとは少々話がちがう感じがするな。
既に分かっていることと頭の中の仮説を組み上げてゆく。
(なんでもいい。とりあえず試せ。今はそうすることしか出来ないんだから!)
ゼノンは1つ大きくてを振りかぶって両手を叩いた。
パァァン!!という音が森にひびき渡る。
もちろんその音はゼノン本人の耳にも届く。そしてその音が聞こえなくなるまで耳を澄ましてみるが……
「…………ダメだ………全くわかんねぇ」
だが、間違ってはいないはずだ……と思い同じことを繰り返しながら進んでいく。しかし、それで何かが変わるわけでもなく木の根に引っかかったり木に衝突したり、山の斜面を転げ回ったりファナの仕掛けた罠にかかったりと散々である。
それでも模索しながら失敗してもう一度挑戦することを決して辞めなかった。
そして………
「師匠ー!!!」
ゼノンの感覚で山を下った思われるところまでやってきた。理由は純粋に木に引っかかることが無くなったからだ。あとは地面の柔らかさと草の感じで判断した。
ゼノンが山を下り初めて13時間経過していた。
「お疲れ様」
「うぉっ!」
約束通りゼノンがファナを呼ぶと瞬時にゼノンの背後から気配もなしにファナが現れた。不意にファナが現れたことに驚いたが、この前と違い倒れることは無かった。
「気配もなしに現れるのやめて貰えませんか??」
「こんな山じゃ仕方ないでしょう?それより確認よ。貴方はギブアップで呼んだの?それともここが下山したポイントだと思って呼んだの?」
「下山したからだと思ったからです」
「……なるほどねぇ…。エコーロケーション方はどうかしら?」
「そっちは全くですね…。全然分かりません」
「まぁ合格ね…。それじゃあ一瞬だけ目隠しをとりましょう」
するとファナはパチンと子気味良い音を鳴らす。するとゼノンの目隠しがゆるゆると緩くなって目からズレてゆきゼノンに約半日ぶりに光が蘇る。
「うっ!」
半日ぶりの光はゼノンには少しだけきつかった。景色に色が着くまでに少し時間がかかる。
そしてようやく目が見えるようになった時、まずゼノが見たのは……!!
「……マジかよ……」
まさかまさかの木であった。辺り一面木しか見ることが出来ない。
ゼノンがいたのはただの自然の休憩所に過ぎなかったのだ。
「最初はそんなものよ。むしろここでエコーロケーションを身につけました。なんて言っていたら私がぶっ殺していたわ」
(だから相変わらず言うことが怖ぇんだよ!!)
「結構下ったと思ったんですけどねぇ……」
「それは残念ね。そもそもエコーロケーションは目が見えない人がその状態で長年暮らすことで必要だから身につけた技能よ。一日やそこらでできるものじゃないわ。さ、帰りましょうか…」
「その前に師匠に聞きたいんですけど……」
「あぁ、それと目隠しは確認のために外しただけだからすぐにつけ直しなさい。これからは常に目を隠した状態で過ごして貰うわ」
ゼノンが何かをファナに聞こうとした瞬間にそれを遮り、まくし立てるように話す。まるで「その続きを聞きたくない」「話すな」と言わんばかりである。
「あの師匠、聞きたいことがあるんですけど……」
しかし、あからさまな話題転換にゼノンは乗ってこなかった。
「…………はぁ。何かしら………?」
ファナは機嫌を悪くして足を止めてゼノンに応じた。
「なんで師匠は教師をしているんでしょうか?」
「………仮に私がそれをあなたに教えるとして………それはあなたに関係あるのかしら?」
魔力が溢れゼノンに威圧をかますがゼノンはそれを無視するように答える。
「…あります。………今日ずっと俺の後をつけていましたよね?」
「!気づいていたのね………」
「えぇ……。まぁ」
そうファナはずっと今日、ゼノンのことを見ていた。時に後ろから時に木の上からずっと見ていた。それにゼノンは気づいたのだ。
(よく考えたら俺が師匠を呼んだ瞬間に音もなく現れたのだって俺の近くに居ないと不可能だろう。でもなんのために??)
そうゼノンの中に残る疑問はこれだ。なんのためにファナがゼノンを監視していたのかが分からなかった。確かにファナは面倒見がいいとは思うが、修行についてくるほどではないだろう。
それにファナは初日にこういっていた。
『ゼノン=スカーレット…。先に言っておくわ。私はあなたを今より遥かに強くすることが出来る。でも、その道は地獄よ。その過程で死ぬかもしれない。というか死ぬわ』
だと言うのにファナはゼノンを殺す気がないように感じた。あれでは万が一に備えていたというか……
(いや、トラップは殺す気だったが……)
「………………はぁ。帰りながら話しましょうか……………。
そしてファナはゆっくりと語った。過去を話すと言った時よりも憂鬱そうな顔でそれでいて悲壮な顔をしていた。
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