第16話 修行③
「あら、動かないの?先手は譲ってあげるわ」
戦闘が始まったがお互い膠着状態であった。
(さすが英雄と言うべきか…。隙がない)
先手を譲ったもののファナの構えに一部の隙も無く、完全に脱力状態である。
「動かないのね。ならこっちから行くわ」
先に動いたのはファナだった。完全に脱力した構えからのゆらりとした袈裟斬りがゼノンを襲う。
「うぉっ!」
ゼノンはそれをかろうじてバックステップで回避する。…しかし、ゼノンの服の一部が切り裂かれた。
(動き出しのタイミング、全く読めなかった。完璧な脱力で余計な力は一切入ってない。ゆえに動きが見にくい。……下手するとホム協会長レベルかもしれないな……)
会長は剣技のみだったのに対し、ファナは魔法まで使ってくるので厄介なのはファナの方だろう。
「考え事なんてしてる暇あるのかしら?」
そう言いながらファナはゼノンに追撃を加えてくる。ファナはゼノンを真っ二つにしようと横薙ぎに切りかかるが、ゼノンはそれを片手剣で受け止める。そのまま短剣でファナを刺しにかかるが、ファナは後ろに引くことでそれを回避。
(なるほど。力はほぼ同等。剣の腕に関しては私の方が下みたいね。さすが私に一撃を与えた者ね)
そして今度はゼノンから仕掛けにかかる。
「神鳴流…地雷」
ゼノンは深く体勢を低くしてファナへと真正面に加速する。そして間合いに捉えたファナへと下から上に切り上げようとするが、それもファナは防いでみせた。
(まだ習いたてとはいえ、自信あったんだけどなぁ。)
「……あなたその剣をどこで習ったの?」
「秘密」
またも距離を取ったファナにゼノンは再び突っ込むが…、逆にファナはゼノンのその動きを利用して横薙ぎのカウンターを仕掛ける…が、
「フゥッ!」
ゼノンはその動きを受け流すだけでなく、その勢いを利用してファナの横に周り、無防備となった側面を短剣で襲う。
「…やるわね」
「どうも」
しかし、ファナが身をよじったこともあり、かすり傷しか与えられなかった。
美しい体から血が流れ出すが、それはすぐに傷すら無くなり、切る前と同じ状態に戻った。
(なるほど。これが吸血鬼の再生能力か…。やるなら致命傷になる攻撃……。いや、それすらもすぐに治されるかもな。やっぱり心臓しかねぇか)
そして再び剣の打ち合いが始まるが、かすり傷はあれどどれも決定打になるものはなかった。
「認めてあげるわ。あなたは剣に関しては強い。技術だけで言うならあなたの方が上よ。だけどあなたは私には勝てない。あなたの剣には欠点がある。それを見せてあげるわ」
「へぇ…。それは楽しみだ」
ファナはゆっくりとゼノンの方へ歩いていく。ゼノンはそれを剣を構えた状態で待ち構える。
クルリとゼノンは左手の片手剣を逆手に持ち替える。
そして2人の剣の間合いが重なる。
その瞬間、
「神速」
ファナから先ほどとは桁違いの速度と手数を誇る剣撃が飛ぶ。
ギャギャギャン!!
ゼノンはそれを両手の剣で受け止める…が…、
(受け止めきれねぇ!速すぎる!!)
「この程度?」
(喋りかける余裕すらねぇ!)
ゼノンの体にどんどんと傷が増えていく。
そして…
(ここだ!)
速すぎるファナの動きに対してゼノンはただ一点を狙っていた。ファナの横薙ぎの動きに対して先程と同じくゼノンはカウンターを合わせようとするが…、
ギュン!とファナの剣筋が急に変わる。
(フェイント!?しまっ……!)
ゼノンはそのままファナの剣に倒されてしまう。
ゼノンはすぐに立とうとするが…
「はい、そこまで」
ゼノンの首筋にはファナの細剣が突きつけられている。
「あなたは確かに強いわ。事、剣の技術に関しては私より上かもしれないわね。だけどあなたは負けた。さてどうしてでしょう?」
「……対人経験の少なさ…ですかね?」
「そうね。それもあるわ。それも含めてあなたには駆け引きが足りない」
ゼノンは幼いころから魔物相手に戦うことはあれど人と戦うことはほとんどなかった。それゆえの敗北であったのだ。それはゼノン自身よく理解していた。
「…これからは実戦を積むっていうことが課題ですか?」
「いえ、それは別よ」
ゼノンの新たな課題が見えたかと思えたらファナはそれを否定した。
「…そんなものそこら辺の騎士からでも教わればいいわ。元々これはあなたの実力が知りたかっただけなの。たまたま剣の打ち合いになってしまっただけよ。自主練の課題にでもすればいいじゃないかしら?」
「どうせ学校で暇でしょう?」とつけ加えてファナは剣をしまう。
ゼノンは無加護かつ貴族とは違い庶民なのでラウル以外はゼノンのことを差別している。それは教員もだ。故にまともな授業なんてなかった。
「…じゃあ、何するんですか?」
「……スキルを身につける」
「…スキルを!?でも、スキルは加護がないと身につけられないのでは?」
ファナから聞いた話ではスキルは加護に依存するので加護がないゼノンではスキルを身につけることは不可能なはずなのだ。
「何もステータスに表示されるスキルだけが技や特性では無いわ。…まず身につける擬似スキルは…『気配察知』…ね」
「気配察知…」
ゼノンはファナの言葉をそのまま繰り返す。
「えぇ。これは強くなるためには必須。このスキルは自分の周りの動きを感覚で察知出来るの。これがあれば奇襲を喰らう可能性だって減ってくるわ。それだけでなく自分の死角も消せる」
「無敵じゃないですか!?」
ファナの説明から思いついたゼノンの感想は『無敵』である。
「実際かなり有効よ。ところでスカーレット君は人間は情報をどこから経ているでしょうか?」
「は!?えっ…えっと……五感?」
急なファナからの問いに対してゼノンは必死に考えて答える。
「正解。その中でも最も重要なのは?」
「………目?」
「その通り。人間は目から全体の87パーセントの情報を得ているの。次いで耳。耳は全体の7パーセントほどね」
「目の情報量多っ!!ほとんど目じゃん!」
予想と現実との差にゼノンは驚く。
「そうね。でも、目は万能じゃない。後ろに目がついてない限り死角を消すなんて出来ないもの」
「そりゃそうだわな」
「目が見えない人は目以外で情報を補わなきゃいけなくなる。そこで役に立つのが耳よ。あくまで人によるけどね。聴覚は背後の音だって拾うことが出来る。ある意味目より万能と言えるわね」
ファナは説明しながらゼノンに目が見えなくなるように布を巻く。決して取れないようにゼノンの頭の後ろで固く結びつける。
「え?何してるんですか?前見えないんですけど?」
「さて、再び問題。今、私はどこから話しかけているでしょうか?」
またも突然の問題にゼノンは戸惑う。しかも感覚的な問題で難しい。それだけでなく何故かファナの気配もない。
(いつもなら気配とかでわかるんだけどな…)
「う、後ろ?」
さっき後ろにいたからゼノンは後ろだと勘で考えるが…
「残念。前よ」
「ひゃあ!?」
耳元で囁くように答えられゼノンは戸惑う。そしてそのまま尻もちをついてしまう。
(バランスが上手く取れない?)
この程度驚かされた位で尻もちを着くことなどゼノンにはありえなかった。しかし、目という情報媒体を失ったことでバランスまで崩れてしまっていた。
「"エコーロケーション"。反射音に対する感度により、物体との距離、大きさ、密度までわかる聴覚の能力よ。本来は目が見えない人に限られるけど、あなたにはそれを習得して貰うわ」
「……上等!!」
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