第13話 知識②
「結局…強くなるには地道なトレーニングしかないかぁ」
ファナの言う「才能を作る」という事が分からない以上、今は我武者羅にトレーニングするしか方法はないという結論に戻ってきた。
「……そうするしかないでしょうね。でもただ適当にやってはダメよ」
「……え?」
「ちゃんと目的を持ってやりなさいってことよ」
「目的…ですか?一応魔王になるって目的はありますけど?」
「それは目的とは言わない。夢…もしくは目標ね」
「はぁ…?」
またもゼノンはファナの言っていることが分からず首を傾げてしまう。
「目的と目標は別物よ。目的はトレーニングする時にはどこを鍛えているとか何を理由でやっているとかそういうものよ。これを意識するかしないかで大きく違ってくるわ。同じことを繰り返ししているとこんなことは忘れがちになってしまうけどね」
「なるほど…」
言われて見ればそうだと納得してしまう。トレーニング初期は腕立て伏せひとつにしても意識していた。しかし今は負荷を増やしていたりするが、そういう意識は忘れがちになっているなと思い返す。
「大事なのはどんな時でも考えることを辞めないこと。それをやめてしまったものから廃れていくわ。これはトレーニングだけじゃない。戦闘においてもそう。生活においてもそうよ。人と獣の1番の差は知能よ。考えることをやめたのなら私はそれを人とは呼ばない。たとえ逆境だろうと考えて起死回生の一撃を放つ。これは人にしか出来ない」
「なるほどぉ……」
ファナの教えに対してゼノンは納得して頷く。
(これが年の功ってやつか……)
「…あなた……死にたいの?」
「なんでですか!!?」
(まさか…バレた!?バカな!?確かに声に出してなかったはずだ!?)
ゼノンも失礼なことを考えてるな、とは思いつつもどうせバレないしと思っていたがどうやらファナには筒抜けのようだった。
「次に余計なこと考えたら……」
「考えたら……?」
ゴクリとゼノンの喉がなる。不思議とゼノンから冷や汗が滴り落ちる。
(まさか……殺すとかそういう物騒なこと言い出すんじゃ……)
ゼノンの心中は穏やかでは全くなかった。先程から嫌な想像ばかりが頭の中を駆け巡る。
「………大丈夫よ。必ず想像以上のことをしてあげるから!」
そういうファナの顔はとても素晴らしい笑顔だったらしい。
(怖ぇ……。怖ぇよ。もしかしてさっき俺が考えてたこともバレてるのか!?)
ゼノンから冷や汗が滝のように流れ出る。身体中の水分が抜けて行くのが良く感じられた。
「…そうね。ついでに言っておくわ。私の言うことは全て正しいとは思わない事ね」
「どういうことですか?」
「言葉のままよ。私や大人、法律そして世界が全て正しいと思っているならそれは違うわ。だから信じるかどうかはあなたが決めなさい。少なくとも私に言われたことをただ鵜呑みにするのはやめなさい。信じるものなんていくらでも変わるわ。それに言われたことをただ信じるだなんてつまらないもの」
「…分かり…ました…」
「どうしても従う何かが欲しいと言うなら自分の心に従いなさい。自分のルールに従いなさい。法律や大人の言うことなんて世界を上手く回すためのルールでしかないわ。本当に大事な時に法や約束事が私たちを守ってくれることなんて有り得るはずがないもの…」
そう語るファナの顔はどこか寂しそうにゼノンには見えた。
「でも、そんなことしたらこの世界は法を破った犯罪者で溢れかえりますよ?」
「そうね。ほとんどは法の圧力に屈するもの。でもだからといって何もかもを縛られるのは面白くない。だから私はあなたに何より自由で誰よりも過酷な道を歩いて欲しいわ」
少し変わった人だとゼノンは思う。ただ信じるのではダメだと、従うだけではダメだと厳しいことを言われた。でも、それは間違いではないとも思う。
もう何回めとも分からないがこの人についてきて良かったと思う。正しいのかは分からないけどここでなら強くなれる気がする。
(でも、なんでこんな人が
ふと、ゼノンは疑問に思った。
ギルザ?を探すのなら育成に携わるより戦場に出た方が知名度も上がってギルザも出てくるかもしれないというのに。だけど何故か彼女は教師としてここにいる。その事にひどく違和感を感じた。
「……すぐに強くなるための方法はないけれど…、強くなるために大事なことならあるわよ」
「ホントですか!?教えてください!!」
ゼノンのちょっとした疑問と違和感はファナからの希望の光によって打ち消された。
「スカーレット君は魔法についてどれぐらい知っているかしら?」
「え?え……っと……」
改めて魔法とは何か?と問われると答えるのが難しい。普段当たり前だと思っているのでその概念を説明しろと言われても上手く言葉が出てこない。
「魔力を使用して精霊?と関与して起こる現象のことですか?」
先程のファナの話と上手く関連付けて自分なりに整理してまとめたものを話す。
「なら同じ属性なら全部おなじ魔法ってことになるわね。それだと
「…あ、そっか……」
どれだけ頭を捻ってもファナを納得させることのできる解答は見つけることは出来ない。
「……タイムアップよ。魔法についてはだいたい正解ね。なら
そう言ってファナは問題の答えを解説し始めた。
「同じ属性でありながらどうして
「『本質?』」
「えぇ。そうね……。例として聖魔法がいいわ」
「ミオの属性ですよね?」
「そうね。ちょうどいいわ。スカーレット君から見てハートフィリアさんの聖魔法の本質は何だと考えられるかしら?」
「……え、ええ……と…」
ファナからの問いに再びゼノンは頭を悩ますことになった。
(そもそも『本質』ってなんだ?本質って言うぐらいだから簡単に変わらない)
そう考えたゼノンは久しぶりに過去のことを思い出す。
(ミオが魔法を使ってたのはどんな時だっけ?アルス達とイノシシ倒してる時……は、身体能力強化だっけ……。あとは先生に怒られてタンコブ作った時に自分だけ治してたり)
『痛った〜い!』
『少し反省しなさい』
そうやって3人にげんこつをしたアズレ先生が出ていった後の事だった。
『ふっふーん!私はかいふく魔法使えるんだもんねー!』
そうやって自分1人だけの傷を癒していた。ゼノンとアルスは完治したミオのことを恨めしく思っていた。
(あとはアルスにやられた俺の傷を治してくれたり……)
『うっ…うっ…』
『もう!仕方ないわねー!ゼノン、私が治してあげる!』
『あ、ありがとう…ミオ』
「あ……、『回復』……?」
(そうだ、そういやミオが聖魔法使う時って昔から回復してる時が多いな……)
「半分正解ね。ハートフィリアさんの魔法の本質は『癒すという気持ち』じゃないかしら?」
「かしら?って師匠も分からないんですか?」
「えぇ。もちろん。『本質』は人それぞれな上にその人本人にしか……いえ、本人にも分からないことがほとんどなのよ。考えたことがないのでしょうね。だから私の憶測よ」
師匠の憶測ならだいたい正解なんだろうな、とゼノンは思った。
ファナの教える力は本物でしっかりと生徒を見ている。なら、きっとミオのこともよく見ているから。
「聖魔法にも色々なものがある。回復、浄化、防御、あとは…強化なんてこともあるわ。でも、どれが得意かというのは『本質』で決まるのよ。だから自分の魔法の『本質』を知っていれば必然的に魔法に関してはより強くなれるわ」
「…なるほど〜」
ファナに言われてゼノンは自分の持つ魔法の『本質』について考察してみる。
(俺の…魔法の本質は何だ?成長魔法は多分『成長』だろうし、でも血液魔法は何だろう?今まで使った感じ血液を媒介にしているんだろうけどそれ以上は難しいなぁ……)
「……ちなみに魔王なら『本質』は何だったんですか?」
作者からのお詫び
更新が遅くなって申し訳ございませんでした。リアルでゴールデンウィークのツケが回ってきてました。
明日、更新します。お楽しみに
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