第12話 知識②

「……それで3つ目の精霊はなんですか?」


まだ万全ではないが、何とか気を取り戻して話を進める。


「その前に少し魔法について話をしましょう」


「……魔法?」


「えぇ。魔法についてあなたが知っていることについて聞かせてくれるかしら?」


そう言われたゼノンは自分が知っている魔法について話を始める。


「えぇっと……火、水、土、風の4大基本属性と光、闇、聖の少し珍しい三大属性に分かれる。それ以外にも属性はあるけど基本的にはそれらは基本属性から派生されたものであまり戦闘向きとは言えない…ってことぐらいですかね?」


「なるほど……。よく分かったわ」


「何がですか?」


「あなたが全然勉強してないってことがよ」


とてつもなく侮辱されたと思ったが事実なので何も言い返すことが出来ない。


(もっとリル先生やアズレ先生に教えてもらうべきだった…)


当時は知識なんていらないって思っていたのでまったく勉強などはせずに一日中トレーニングに励んでいた。


「ひとつ。まず基本属性以外が戦闘向きじゃないって知識は捨てなさい。あなたの血液魔法がいい例ね」


「あ〜、なるほど……」


何度と血液魔法を使ったことがあるゼノンはこの力の強さを知っている。この魔法が戦闘向きではないとは思うことなどできなかった。


「いい?魔法というのは主に二つに分類することが出来るの。1つ目は放出系。基本全ての魔法はこれに分類されるわ。そして例外として作用系。これは自分の体や相手の体に直接作用するの。そうね……。身体能力強化や血液魔法……後、成長魔法もこっちに分類されるわね……」


少し饒舌気味にファナは話を続ける。ゼノンは教えてもらったことをノートに取りながら記憶していく。


「そうなんですか……。それってけっきょく何が違うんですか?」


「焦らないの。放出系の魔法を持たないあなたには少し理解しにくいかもしれないわね…。誰もが使える身体能力強化だけれどスカーレットくんは普段どうやって身体能力強化を使っているかしら?」


「えっと……魔力を体全体に行き渡らせるようにして……」


「その通り!普段から当たり前に使われている魔法だけれどそうやって使えることを当たり前だから説明できないではダメよ。しっかり意識して言葉に表せるということは大事なの!」


それはおそらく、習得するのにかなり苦労したからだと思う……とは思ったがゼノンは特に口に出すことはしなかった。


(あのころは村長に何度も説明してもらってたからな……)


「そしてそこが放出系と作用系の1番の違いでもあるの!」


「はぁ……」


先程からどんどんファナのテンションはエスカレートしていく。その表情は喜びに満ちていた。


「放出系は魔法を使う時に一点に集中してそれを自分の属性に変えて放つ。対して作用系は自分の体内で魔力を行き渡らせることで使える、つまり自分の体内で完結しているのよ」


ゼノン自身が放出系統の魔法を使うことが出来ないのでイメージすることは難しいが、何となくファナの言っていることは分かる。


「この時に活躍するのが精霊なの」


「はぁ…」


ゼノンも長らく魔法を使っているが精霊なんてものは見たことがない。


「本当はね?放出系の魔法は人間だけじゃ使うことは出来ないの」


「え!!?そうなんですか!!?」


「えぇ、そうなの!そうなのよ!」


ゼノンの驚きがファナの興奮を高める。


「放出系の魔法はね、魔力を一点に溜めた後それを精霊の力によって魔法に変えて放出するのよ!」


「すげぇー!!精霊すげぇ!!」


「えぇ!だから精霊というのは魔法を使う上に置いて必要不可欠なの!普段精霊は私たちの周りにいるのよ。でも精霊は常に私たちの力を貸してくれるわけじゃない。だから精霊と"直接契約"を交わすの。これが3つ目の強くなる方法」


「直接契約?」


「えぇ。自分の人生の中で1度だけ使えるの。たった1人の精霊と契約を交わす。そうすることでその精霊からしか恩寵を受けることは出来ないけど、その力は絶大。強くなるなら必須よ」


「なるほど………」


「ただ気をつけなさい。精霊との契約は1度だけ。だからそこでヘマをやらかせば一生あなたは弱いままよ」


「了解です。………ところでその精霊ってのはどこにいるんですか?見たことないんですけど?」


「え?」

「え?」


ゼノンからの衝撃の告白に思わずファナの動きも固まる。と、同時にゼノンの動きも固まる。


「……あなた、ここに何があるか見える?」


ファナは自分の右隣の空中を指差す。ゼノンにはただ何も無い空気中を指差しているようにしか見えない。


「…見えません」


「…それじゃあこれでどう?」


ファナから少し魔力が溢れ出るが、ゼノンから見える景色は変わらない。


「……見えません」


「……それならこれでどうかしら?」


さらにファナ大量の魔力が溢れ出す。しかし……


「………見えません」


ゼノンから見える景色は全く何も変わることは無かった。


「そう。………さっきの話は忘れなさい」


「どういうことですか!?」


「………私はさっきから私の精霊を指していたけれどあなたに精霊は見えていなかった。精霊が見えないんじゃ精霊契約なんてできるわけないもの」


「…そ、そんな……!?馬鹿な……!!?」


ゼノンはファナからの死刑宣告に項垂れる。


「面白い結果ね……。無加護でも精霊が見えないという現象は初めて聞いたわ。これも無加護と作用系魔法しか使えないということが関与しているのかしら。それとも単に彼が精霊に嫌われているの?」


ゼノンは己の運命に絶望するが、ファナは興味津々でゼノンのことを観察して紙にまとめていた。


「……師匠…何してるんですか?」


「レポートにまとめているの」


「はは。俺の愚かな運命をですか?そんなことして何になるっているんですか?」


「あら?言ってなかったかしら?私は研究者なのよ。さっき教えた作用系や放出系も私が研究したものなの」


「……そりゃあ、凄いですね……」


(じゃあ、今の俺は実験動物かあ………。もはやモルモット…人間ですら無くなってきたな……)


そうやってゼノンの気分はどんどんと下がっていくのだった。


「ししょー……他に強くなる方法はないんですかー?」


「ないわね。諦めなさい。あとは地道にトレーニングする事ね」


(結局いつもと変わらないな……)


無加護のゼノンが強くなる方法は今まで通りトレーニングすることのみ。それ以外で強くなる方法は結局のところないのだ。


「はぁ。俺にも…加護さいのうがあったらな……」


その言葉にファナの手の動きが止まる。


普段ずっとゼノンが考えないようにしている事だが、時々考えしまう。そしてこの時ばかりはついポロッと出てしまう。加護があればすぐに強くなれた。そうすれば最悪の未来の回避だって難しくない。


才能さえあれば……


そう思った瞬間にゼノンのすぐ横に剣が飛んできた。


「うおっ!何するんですか!?」


「……とてもつまらないわね」


ファナのゼノンを見る目はかつてないほどに冷えきっていて、光などどこにも無かった。


「し、師匠?」


「才能がないから絶望するなんて普通の人間がやることよ。とてもつまらないわね。才能がある人を羨むことはいい。だけど才能がある人を嫉妬して、才能がないことを…自分の才能が劣っていることに絶望するのはやめなさい。それは時間の無駄よ」


「でも…才能があれば」


ゼノンの周りはミオやアルスなど図らずとも加護がすごい人が多かった。その中でゼノンは無加護。才能というものがどれだけ魅力的なすごいことか…ゼノンはよく知っている。


(加護があればアルス達と肩を並べて戦えたかもしれない。ミオを……師匠を救えたかもしれない)


どうしてもゼノンにはそんな未来が頭をよぎってしまう。


「なら、"作れ"ばいいでしょ?」


しかしファナはそんな考えは「つまらない」と言って吹き飛ばす。


「……え?」


「スキルがないなら技術でスキルを作ればいい。才能だってそうよ。確かに先天的な才能は存在する。そして…偶然にもそれを見つけることが出来たら才能によって強くなれるでしょう。なら才能のないものは努力する。でも才能のあるものだって努力しているのだから才能のないものは勝てない……と思っているのでしょう?」


そこまで悲観的に思ってないけど…とゼノンは思ったが大方はその通りだ。だけどそれは当然だろう?とゼノンは考える。


「違うわ。才能がないと言うなら才能を作ってしまえばいいのよ」


「……よくわかんないです」


「いい?才能はね確かにすごい力よ。生まれつきの力があるのは事実。だけどね?生まれつきの天性だけを才能とは呼ばない。才能は確かに作れるものなの。才能がないなら作ればいい。」


ファナの言っていることは曖昧で分かりにくいかもしれないが少しだけゼノンには伝わる。


(師匠は多分全部知ってて詳しく説明しないんだろうな)


つまり─「ヒントはあげた。自分で考えろ」ということなのだろう。


「次にそんなつまらないことを抜かしたら本当に破門にするわ」


「……善処します」


めちゃくちゃだろ。と思ったが、その条件の元弟子にしてもらったので文句はない。


きっと励ましてくれたんだろう…そう思うことにして意識を切りかえた。


(才能がないなら"作る"……か)


ファナに言われたことを忘れないように胸の中で何度も唱える。


(あんなことは初めて言われた。やはりここに来てよかった…)


そう思い、未来に向けて少しだけ前向きになるのだった。

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