第36話 開幕
「俺は悪くありません」
「そんなことを言っても無駄です。私は証人です夏樹君が花音を部屋に連れ込み一夜を共に過ごしたんです」
「捏造だ」
「夏樹君大胆だね」
「千夏さんまで...」
当の本人は起きているのかよく分からないがこの状況を楽しんでいるに違いない。
「この裁判の裁判長は誰ですか?」
「静粛に!」
「証人が裁判長なの!?」
この茶番はいつまで続くのだろうかそんな事を思っていると
「私が悪いの」
さっきまでぐっすり眠っていた花音が言った。
「そ、そうなの」
案外軽く折れた天花寺さんは何かを聞きたそうだったが躊躇った。
千夏さんが花音の耳元で何かを囁いた。
「夏樹、天花寺さんが教室の前で友達さんと話してるんだけどなんかちょくちょくこっちを見てるような気がする」
「気にしすぎだろ」
思い当たる節があるが雄太に言えるわけがない。こいつに言ったら俺は学校に来れなくなってしまう。いや退学するかも。
そんな休み時間も終わり帰路につくと昇降口で天花寺さんとばったり会った。
目と目を合わせるこの時間はまるで始業式の朝のようだった。あの朝から変わったんだ。
天花寺さんを見るなり走って昇降口を後にして校門を潜り抜けると非通知からの不在着信だ。
「俺なんかしたかな」
着信を無視して走り続けるが着信音が止むことはなかった。
やっと家につきポケットからスマホを取り出して液晶を凝視する。
すでに12件の着信があった。
「誰かに金なんて借りてないよな」独り言を言うとまたもや非通知からの着信が玄関に鳴り響いた。
恐る恐る液晶をスワイプしてゆっくり耳に当てる。
「もしもし」
「夏樹君?」
この声はすぐに分かった。天花寺さんだった。
「どうした?」
「なんで出てくれないの?避けられたと思って電話したんだけど」
天花寺さんはそう言うが一つ疑問があった
「俺の電話番号なんで知ってるの?」
すると電話越しで天花寺さんの焦ったような声と動揺している事が伝わった。
「べ、べ、別に夏樹君と電話したいから夏樹君のお母さんに聞いたとかじゃないんだよ?」
バレバレな嘘をつく天花寺さんの声を聞いて俺はスマホを耳から話して通話終了のボタンを押した。
そして帰ってきた天花寺さんにひどく叱られた。
『なぁ夏樹、夏休み楽しいか?』
『夏休み始まってまだ全然だぞ?それに俺に電話してくる暇あるのか?』
「夏樹く~ん?ちょっといい~?」
『今女の人の声しなかったか?お前ひとり暮らしだよな?もしかして、もしかしなくても、もしやデリヘルか?』
『ちげーよ。じゃあな』
『まだ話し終わってね...』
プープープー
「夏樹君夏休みに4人で旅行行こ!」
「千夏さんそんな暇あるんですか?」
「まぁ気にしなくていいの!」
「えぇ」
俺の夏休みが始まったのか!?
p37《夏は恋》
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