ちよ
尾八原ジュージ
1
おばあちゃんのあの包み、といったら、親族は皆苦笑いか薄笑いになる。それくらいの印象深さは十分にある代物だった。
8年前に亡くなった祖母は、秘密の宝物を持っていた。それは10号ほどの油絵なのだが、彼女はそれをきちんと紙で包んで、生前その中身を誰にも見せたことがなかった。晩年は大学病院の病室で過ごしたが、そこにも絵は包まれたままの状態で持ち込まれていた。
この絵の由来を知っているのは、おそらく内孫で、見た目も祖母によく似ていたこの私、ただ一人だけだろう。祖母はこの話を、亡くなった祖父の手前、内緒にしておきたかったのだという。
「でもこうしてお迎えが近くなってみると、やっぱり誰かに遺しておきたいと思ってね」
そう言って、私にこの空想じみた話をした翌日、祖母は眠るように息を引き取った。
それは太平洋戦争の最中に始まった物語だった。
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