12

―PM5:14―


いつもと同じ時間、同じ車両。


私と翼くんは並んで座っている。


いつもと違う点があるとすれば、友達として横にいるのではなく、


『恋人同士で隣り合っている』


と言う事。


半年前は……いや、ほんの数日前まで、まさか彼女になれるなんて思ってもみなかった。


(恋人同士……。なんだか緊張しちゃうな)


自分で言って、ドキドキして来た。


隣を見ると、相変わらず翼くんは本を読んでいる。


「今日は、何を読んでるの?」


あれ?と思い、尋ねた。


昨日まで読んでいた本とはサイズが違う。


「ん?コレ?恋愛小説」


「えぇ?」


いつも小難しい本を読んでいる翼くんが恋愛小説?


意外過ぎて、ポカンとしてしまった。


「今流行ってるって、クラスの女子が言ってたから」


「ふぅん。面白い?」


「んー……まあまあかな」


「へー」


「色々参考にもなるし」


「参考って、どんな?」


「そうだな、例えば……」


そう言って翼くんは私の顔を引き寄せ、小説で隠しながらキスをした。


「なっ!」


「こんなんとか?」


いきなりの事にビックリして真っ赤になっている私を見て、翼くんはニヤニヤしている。


今日は電車内が空いていて良かった。


「……今度、私にも読ませて」


「いいよ」



タタンタタンッ――タタンタタンッ――。



電車が心地よいリズムで音を奏でる。


いつもと同じ時間、同じ車両。


何気ないこの空間が、特別になっていた。




        ━End━

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電車で見かけるあの人の横には、いつも彼女がいた。 咲良 緋芽 @hime-sakura

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