―PM 5:14―


いつもと同じ時間、同じ車両。


渡瀬わたせさんは、本が好きなんですか?」


「うん。美里みさとちゃんは好き?」


「嫌いじゃないです」


私達は隣同士、並んで座席に座っている。


痴漢騒動から五日。


私と彼の距離は、短い期間でグッと近くなった。


彼の名前は『渡瀬 翼わたせ つばさ』さん。


都内の進学校の、二年生。


私の一つ上。


一緒に居てみて分かった事。


渡瀬さんはすごく頭が良いと思う。


だっていつも難しそうな本を読んでいる。


今も、英語だけの本を読んでいた。


チラッと本と渡瀬さんの顔を交互に見る。


(今日こそ、聞いちゃおうかな……)


ずっと聞きたくて聞けずにいる事。


多分、傷を抉る様な質問になると思う。


答えてくれるかどうかも分からない。


でも、どうしても聞きたかった。


(……よしっ!)


もうすぐ降りる駅が近いと言う事もあって、私は心の中で気合を入れて口を開いた。


「あの……」


「うん?」


「一つ、聞いても良いですか?」


「何?」


「いつも一緒にいた、あの人は……」


ここまで言って、この後に続く言葉を本当に言って良いのだろうか?と悩んでいると、渡瀬さんがゆっくり本を閉じ、


「……他に好きな人が出来たんだって」


とだけ呟いた。

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