―PM 5:14―


いつもと同じ時間、同じ車両。


今日は、メチャクチャ混んでる。


丁度、斜め向かいに立っている彼。


彼もどうやら座席を獲得出来なかったらしく、私同様眉間にシワを寄せ、この混雑に耐えている。


(――っ!?)


急に背後に異物を感じ、ゾワッ!と鳥肌が立った。


(え……?これ、お、お尻……触られて、る……?)


混んでいるから、手が当たってるだけだろうか?


……いや、違う。


この感覚は――


(完璧に触られてるっ!)


声を出そうとしても、初めての経験と恐怖で言葉が出ない。


(怖いっ!どうしよう!!)


混んでいるから体を動かそうにもままならず、私は泣きそうになりながらカバンをギュッと抱えて耐えた。


「いでっ!いででででっ!」


「おっさん、何してんの?」


振り向くと、いつの間にか移動して来た彼が、サラリーマンの腕を捻り上げていた。




*****



「本当に、ありがとうございました!」


私は、ガバッ!と勢いよくお辞儀をした。


「どういたしまして」


彼と二人、駅のホーム。


彼が捕まえてくれた痴漢はさすがの満員電車で抵抗出来ず(あと、周りの乗車客も助けてくれた)、次に止まる駅で下ろされて駅員さんに連れられて行ってしまった。


話を聞かせて欲しい、と言う鉄道警察官に経緯を説明し、やっと解放されて今に至る。


その間、彼はずっとそばに付いていてくれた。


「私、痴漢なんて初めてで、どうしていいか分からなくて……」


思い出して、体が勝手に震える。


俯き、唇を噛み締め、必死に耐えた。


ポンポンッと、不意に頭に温かい感触。


顔を上げると、彼が微笑んでいる。


「怖かったよね……」


その笑顔を見たらなんだかホッとして、ポロポロと涙が零れた。


「……はい」


彼は、私が落ち着くまで、そばにいてくれた。

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