第7話 決断は重く
「ついてきたまえ、新人くん。侵入者はこっちだよ」
そう言って俺の前を歩くのはクロノトリガー幹部。
名を
クロノトリガー。
貿易商の聖地【ガランティッシュ】というビルを崩壊させた経歴を持つ犯罪組織。
他にもいくつもの凶悪犯罪事件の糸を引いていると考えられている。
脅威度は魔導犯罪組織【オロス】や【薔薇】など【連合軍】にマークされている要注意団体に勝るとも劣らない。
そんな組織で名乗っている名前なんて、偽名かどうかは分からないが、きっと偽名だろう。
その容姿は蛇の顔に黒い鱗が生えた体で二足歩行。
スーツ姿だが、隠しきれないのか尻尾が覗いている。
亜人種と言う奴だ。
どうやら侵入者を捕まえたらしい。
「何故、新入りの俺を、侵入者に?」
「何故ってそりゃぁ、君がほかの幹部に疑われているからだよ」
「俺が?……やっぱり新人だからですか」
「どうだろうねー。僕は疑ってはないからねぇ。彼らのことは分からないや」
「ありがとうございます」
「君をじっくり見て、育ててきたのは僕だからねぇー当然だよ」
最初は油断ならない相手だと思っていたが、案外抜けているのかもしれない。
疑うことも知らないだなんて間抜け以外の何者でない。
こんなのが幹部とは、クロノトリガー上層部の目は腐っているのだろうか。
そんなマヌケの後について行くと、地下深くの牢屋のようなところに着いた。
目線の先には硬く冷たい鉄の扉が。
「よし、着いた。でぇーわ、君の決断を見ようか」
「決断ですか?」
「そうだとも。侵入者でないことを示すために、クロノトリガーに忠誠を誓っていることの証明のために、君の手で侵入者を殺したまえ」
「もしかしてこの先に?」
「あぁ。捕らえてある。抵抗は出来ないからね、尋問するなり始末するなりは君の判断に任せるよ。ほら、これを使いたまえ」
投げ渡されたのは黒い拳銃。
人を殺すために扱うには軽く、人の命の天秤をどちらかに傾けることができるほどには重い。
魔導師や戦士に対してはちっぽけな武器。
しかし、人一人の命ならば容易く奪ってしまう凶器でもある。
抵抗できないということはこれから行く部屋はおそらく魔法含め特別な力は何も使えないのだろう。
侵入者も、自分たちも。
「ありがとうございます」
「あぁ、これから入る部屋は一人では危ないから着いていこうか」
「いえ、それには及びません。お目汚しになってしまいますし、反抗してこないとも限りません」
「なに、君を連れていったらすぐに出ていくさ」
軽い足取りで静止を振り切り、扉を押し開ける。
なんてやつだ。
そして俺はなんてついてないんだ。
部下の忠告も軽く受け流して。
溜息をつく暇もなく催促が届く。
「どうした、早く入りたまえ」
「…はい」
その部屋には鎖で繋がれた女がいた。
──やっぱりな。
部屋に入ってきたカフカースを、鎖で繋がれ、猿轡を噛ませられても、気丈に睨みつけている。
拷問でもされたのだろうか。
それとも女への加虐趣味がある輩がいるのだろうか。
青アザが痛々しい。
ほれ、見たことか。
やっぱりこうなる。
それでろくな情報が出てこなくて処分しようとする。
無能では無いか。
上もクロノトリガーも。
「──!?んん!んんー!んー!!」
「なんか言ってますけど」
「無視無視。じゃあ、この部屋では魔法の力は使えないから始末よろしくね。──さよなら」
そう言って俺の肩を叩いて背を向ける。
それが最期になることを覚えておけ。
「はい」
マガジンに満タンに詰まっている薬莢をひとつつまみ出し、収納して、コッキングを引く。
そして引き金に手を掛けて、照準を定める。
──後ろ姿を見せるカフカースへと。
迷いなく引き金を引いたはずだ。
背には大事な、守るべき仲間。
──カチ。
空砲だった。
なぜだ?球は入れてあって、詰まって暴発しないように一つ抜いてなんだこれは行けない姿勢をコノハ待っててくれ助ける助けてくれ何だこれ殺される落ち着け冷静になれ
「…ふふ、やっぱりね。ネズミは二匹だったねぇ」
なんだこれ、なんで死なないなんで撃てないこんなのおかしい救えない
「…なんで、疑ってないって」
「あぁ。君を犯人だと疑っていなかったさ。確信していたからね」
ああああああああああぁぁぁ
「んんー!ん!──!」
振り下ろされる手──
赤く吹き出すナニカ──
そして、俺の意識は──
コノハ──
に─────
あ
死にた───
【クロノトリガー潜入思念記録 6】
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