第18話〈俺が三人分になる……〉

「母は別に、じんさんが望むのならばそれで良いと思ってますが……」


歯をギリッ、と噛んで、そう銀鏡小綿は言葉とは違う嫌そうな表情を浮かべる。

それは別段、長峡仁衛の愛を受け入れたくないからではない。

むしろ逆であり、長峡仁衛の愛は自分のみに向けて欲しいと思っている。

だから、苦しそうな表情をするし、彼と言う存在を独占出来るのならばこの場に居る全員を倒してしまおうとすら考えていた。

しかしそうすれば確実に長峡仁衛に抱く恋慕は消えてしまう。

もどかしく思っていた。


「先輩は、もっと理性的だと思ってました」


駒啼涙はそう長峡仁衛に向けて言った。

その言葉は、長峡仁衛を思い切り引き裂いてしまいそうな言葉で、長峡仁衛は深く傷つく。


「いや、俺も……そんな最低な人間、だとは思わなかったけどさ……」


消極的な声になる長峡仁衛。人に嫌われる、そう考えるだけでなんだか涙が出てきそうだった。


「百歩譲って、先輩が私を愛してくれるのは分かりますが……しかし、その同等の愛を他の人に与えると言われて、それは愛される側にとっては嬉しくない事なんですから」


(愛してくれる事自体は良いんだ……)


荊で縛られた道具小路薊は苦々しい顔を浮かべた。

その言葉から察すればそれは最早両想いと言っても過言ではない。


「そっか……いや、そうだよな。流石に、三人に愛を嘯くのは、それはやっちゃいけない事だよな……」


「ちょっと仁。何諦めているのかしら?」


長峡仁衛の諦観を覆す様に、九重花志鶴が彼の肩を持つ。


「ハーレムなんて面白い事、そう簡単に諦めないで欲しいわね。完璧なクズになり切って、ほら、もっと頑張って説得なさいな」


「姉御は長峡の味方なのか?違うのか?」


近くに居た永犬丸詩游が言う。

彼女の言い方は少し長峡仁衛を貶す様にも聞こえた。


「私は賛成派ですもの。まあでも……そうね、別にハーレムルートじゃなくて、純愛でも良いじゃないかしら?」


九重花志鶴は指先を下唇に添えて考えた。


「純愛って……でも、俺……三人じゃないと意味無いんですッ!」


「クズになってるなぁ、長峡ぉ」


長峡仁衛の叫びに、九重花志鶴は答える。


「そう。だから仁。貴方は今から三人分になるのよ」


「さ、さんにんぶん?」


九重花志鶴の突拍子も無い言葉に困惑の色を浮かべる長峡仁衛、いや、その周囲の人間も、彼女の言葉に疑問しか浮かべてない。


「ハーレムが不誠実だというのなら、純愛は誠実と言う事なのね?それはつまり男一人に対して女複数がダメなら、男一人と女一人と言う形式ならばそちらの方が良いと言うコト……なら、仁がもしも三人いたら?」


そこで、長峡仁衛はハッとした表情を浮かべた。


「じゅ……純愛だ」


「出来ないだろ、いや出来そうだけど」


親友が段々と馬鹿になってくる様を憐れながら永犬丸詩游は言うのだった。

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