第6話〈ウソつき少女の心音は心地良い〉


ナースは長峡仁衛に向けて指を構えると同時、長峡仁衛は悪寒が走る。

隣に居る駒啼涙を押して彼女を自身から遠ざけると、長峡仁衛は腹部に衝撃が走り膝を突く。


「ふゅー………ひ、ゅー……」


長峡仁衛は自らの胸を押さえつけた。

呼吸がし辛い、何故だろうか、長峡仁衛が考えるよりも、ナースの方を見た。

ナースの指には、綺麗なピンクの色をしたものが握られている。

それは、長峡仁衛の心臓だった。ナースは肺を自らの胸部に突っ込むと、気持ちよさそうに仰け反りながら痙攣していた。


「ぐ、ふ、、ぐはッ」


長峡仁衛は意識が途絶え掛ける。

心臓を奪われたと言う事実のみを残して、長峡仁衛の生命活動が停止する。



駒啼涙の言葉が響く。長峡仁衛は心臓が取られたと言う事実を確認する為に自らの心臓の音を聞こうとする。

その長峡仁衛の行動を止めるかの様に、駒啼涙が長峡仁衛の頭部を強く抱きしめる。

体温の低い彼女でも、その胸部に耳を当てられる事で、心音が聞こえて来た。

その心音が長峡仁衛の確認方法を阻害する、そして数秒と言う短い時間を以て長峡仁衛の意識は鮮明になってくる。


「ッくは、はッ……はぁ……はぁ……」


長峡仁衛は改めて自らの胸部に手を添える。胸から聞こえてくる鼓動は紛れも無い自分の心臓。彼女の〈嘘八百万の神々〉の効果によって心臓など取られていない、と言う虚構が現実へと裏返った。



更に厭穢であるナースに術式を発動するが、ナースは痙攣するばかりでその能力が発動されている様子は無かった。


(人型ならば私の術式が起用すると思いましたが……言葉を理解出来てないですね……元から私の能力は対人用だから仕方が無い……なんて言い訳は利きませんか。なら……)


「先輩、此処は一度退きましょう」


「あぁ、俺も今そう思った所だ……」


長峡仁衛はよろめきながらも立ち上がる。

そして匣を影から出現させて積み重ねると、匣が廊下に敷き詰められて壁となった。


「これで、しばらく時間が稼げる筈だ……」


長峡仁衛は憔悴した様子で歩き始める。駒啼涙は長峡仁衛の手を肩に回して杖となる。


「大丈夫ですか?先輩」


「あ、あ……心臓が戻ったけど、調子が悪いのは相変わらず、みたいだ」


「厭穢から離れれば不調は元に戻ります、


更に駒啼涙は言葉に事実と虚構を織り交ぜた。

その言葉が事実であると認識すれば、確認する事も無く信じてしまう。

長峡仁衛はそのまま退避して言霊が効いて来たのか調子が良くなってくる。

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