第7話〈どっきり〉

離れた事で、段々と調子を取り戻していく長峡仁衛。


「あの厭穢、俺の心臓を掴んでいた」


「そうですね。空間系統に属する能力、と言った所でしょうか……しかし、よく能力を使役したのが分かりましたね」


駒啼涙は最初、駒啼涙を弾き飛ばしたのを思い出した。

恐らくは、長峡仁衛がナースの厭穢が何らかの方法で発動した瞬間を見抜いたのだろう。


「あぁ、あの厭穢、手から透明な手を伸ばしたんだ」


透明な手。

いや、背景に同化した手と言った方が良いだろうか。

一見にしてみればどこにあるかは分からないが、動いている所を凝視すれば、微かに空間が揺れ動いているのが分かった。


「駒啼を狙ってたから、俺が変わりに受けたんだ。……心臓を鷲掴みにされて、抜き取られたんだろうな」


「成程……では注意しなければなりませんね……どうぞ、先輩」


駒啼涙はポケットからあるものを取り出した。それは目薬だった。


「これは?」



駒啼涙は〈嘘八百万の神々かみさまのいうとおり〉を発動した。


「これが?」


「はい、知り合いからの伝手で手に入れました。祓ヰ師は特殊な組織に属しています。こういった薬を作るのは簡単ですよ」


そう虚構に信憑を持たせる様な言葉を口にして長峡仁衛は信じた。

駒啼涙は長峡仁衛の頬に手を添えて目薬を入れようとする。


「あ、ちょ、待って、自分で入れるから」


「いえ、ちゃんと目薬をしなければ効果はありませんので。私がキチンと眼球の真ん中に液体を垂らします」


「あ、あッ、え、た、タイミングッ、俺に合わせてく、ぐわッ」


片目に落ちる目薬。

長峡仁衛は滴る目薬の薬液に目を沁みさせた。


「ぐ、がぁ……」


駒啼涙も一応目薬をさしていく。

これも、目薬の信憑性を上げる為の方法だ。


「く、ふぅ……あれ?なんだか、明るいな。周り……」


周囲を見回す長峡仁衛。

薬の効果によって目が良くなっていて、暗闇である筈の廊下は、長峡仁衛の目を通すと日差しの入った廊下の様に見えた。


「薬の効果が効いて来たみたいですね、個人差があるので、私はまだ暗闇しか見えません。取り合えず明かりで周囲を照らす様にお願いします」


「あぁ……ん?」


長峡仁衛は影から匣を召喚させると、駒啼涙の為に懐中電灯を取り出す。


「ありがとうござます、これ、押して……」


「ばあ」


「きゅッ、~~~~~ッ!?」


声にもならない悲鳴が響いた。

明かりをつけると同時に、目の前に女性の姿があったのだ。


「だ、大丈夫か?駒啼、あぁ、夜臼に乗るんじゃなかった……」


長峡仁衛は駒啼涙を見る。

目が見える様になった長峡仁衛は、既に夜臼ぴょんが来ていたのは見ていた。

だが、夜臼ぴょんが人差し指を唇に当てて静かにして欲しいとジェスチャーしていたので、てっきり近くに厭穢が居るのかと思って黙ってしまった。


それが悪かったらしい。夜臼ぴょんは普通に、駒啼涙を驚かそうとしていたのだった。

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