第2話〈ギスギスしてきたギス〉
長峡仁衛に会う前。
二人の後輩たちが校門前まで向かおうとしている。
黒の色合いを持つ駒啼涙。
灰の色合いを持つ夜臼ぴょんの二人だ。
駒啼涙は、長峡仁衛に会う前に、夜臼ぴょんに話し掛けていた。
「ぴょんさん」
「んー?なになに、どうかしたの?」
呑気な雰囲気を醸す夜臼ぴょんは顔を傾けて、駒啼涙を覗き込む。
「えぇ、一つ忠告です」
「忠告?物騒だねぇ」
忠告と聞いて眉を顰める夜臼ぴょん。
しかしその表情は笑っていた。
「物騒になるかどうかは貴方の行動次第ですので」
「へぇー……でぇ、なにさ、るいるい」
親しみを込めて呼ぶ彼女の愛称も、今の状況では煩わしいものだった。
駒啼涙は単刀直入に告げる。
「先輩との接触はなるべく避ける様にして下さい」
「ん?なんで?」
首を傾げる夜臼ぴょん。
駒啼涙は内心苛立ちながらも彼女に向けて正直な言葉を告げる。
「貴方と先輩との仲は知ってます。が、それはあくまでも昔の話……嫌な言い方でもしましょうか。貴方は既に終わった人なのです。なのに、先輩に再び擦りつこうだと言う考えはやめていただきたい」
黒瞳が夜臼ぴょんを映し込んだ。
そう言われて、夜臼ぴょんは少し困った様な表情を浮かべて。
「んー……まあ、別にぴょんさんは良いけどさ」
駒啼涙は甘ったるい彼女の声色が癪に障る。
「なんですか、その含みのある言い方は」
「いやいや……たださ、じーえー先輩がどう思うかなって話」
彼の名前を出すと、駒啼涙は目を細めた。
それは睨んでいる、と言っても相違ない。
「………」
「あはは、そう睨まないでよー、でも、そういう話もあるかも知れないでしょ?大丈夫だいじょーぶ、ぴょんさんからはアプローチはしない、けどぉ……」
またも含みのある言い方だ。
よせば良いのに、駒啼涙は夜臼ぴょんにその続きを急かした。
「しない、けど?」
「………そうなったら、ごめんね?」
舌を出して片目を瞑り、人を小馬鹿にする様な仕草をした。
それが彼女の神胤を彷彿とさせて、彼女の舌先に刻まれた紋様が紫色に輝く。
「食中毒の症状が出てきましたよ」
術式を発動。〈
虚構を現実に改変させるその能力は破格故に能力の条件が付いている。
そしてその条件を、夜臼ぴょんは理解していた。
「ん?いや出てないよ。それ以前に食事してないから。健康法でね、一日食べて一日胃袋を休めるって奴、実施してるからさー……だから効かないよ。確かめるまでもないからねぇ」
既に術式の隙を付いて食中毒にならない理由を述べた。
その行動によって確認された事と認識されて、食中毒は不発に終了する。
「………ふぅ、やり辛い」
駒啼涙は軽く息を吐くと。即座に踵を返す。
その術式はまるであいさつ代わりと言いたげに、彼女に対する謝りすらなかった。
「まあまあ、あ、そろそろ行こっか、じーえー先輩、待ってるよ」
彼女も気にする様子も無く、長峡仁衛の元へと向かい出すのだった。
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