第4話〈とんとんとんとん〉
「先輩、今日はご馳走様でした」
帰り道、長峡仁衛は彼女を駅前まで送る事にした。
電車まで多少の時間があったから、長峡仁衛はその時間の間一緒に居る事にした。
「ああ、あのかき氷、イチゴの果肉を磨り潰してたんだな。甘酸っぱくて、美味しかったよ」
「はい、あそこは私の一押しなんです。先輩が喜んで下さって、本当に良かった」
「うん。満足だよ」
笑みを浮かべる長峡仁衛。時計を確認すると、時間は七時頃を上回っていた。
どうやら長く街に居たらしい。
「ですが、本当に良かったんですか?奢ってもらって」
「ああ、いいさ。後輩を奢るのが、先輩の役目だからね」
そう長峡仁衛はふと誰かがこんなセリフを言った様な気がして考える。
確か古いドラマの再放送で見た内容に、そんな台詞があった筈だ。
そう、確かそうだ、長峡仁衛はひとりでに納得すると、彼女の方に顔を向き直す。
「もしも暇だったら、また私と遊んでください。どんな用事があっても、先輩の方を優先しますので」
「あぁ、まあ、予定は話し合って決めるとして……そうだな、美味しいものも食えたし、満足だよ。俺は」
そう言って、どうやら電車が来た様子だった。
駒啼涙は電車の方へと向かい、長峡仁衛は彼女を見送って一人帰る事にする。
かつ、かつ、と。一人、帰路を歩いていく。
……何か、背後から気配を感じたが、恐らくは気のせいだろう。
長峡仁衛は、八十枉津学園へと帰還した。
「あ、長峡、お帰り」
あさがお寮に戻ると、そう永犬丸詩游が言って出迎えてくれる。
ゴスロリファッションではなく、キャミソールを着込んでいる。
どうやら永犬丸詩游が部屋に居る時の恰好がそれであるらしい。
「ああ、今日の晩御飯はなんだ?」
そう永犬丸詩游に聞くと、永犬丸詩游は体をビクリと震わせて目を逸らした。
「行ってみれば分かるから」
そう言って長峡仁衛の元からそそくさと逃げて行った。
一体なんだろうか、長峡仁衛は永犬丸詩游の言われた通りに食堂ことリビングへと向かうと……。
「………」
たんたんたん、と。銀鏡小綿が料理をしていた。
何時もの様に長峡仁衛の口に合う料理を作っている。
だと言うのに……何故か、その雰囲気は夥しい。
まるで飢えた獣に睨まれたかの様な、骨の芯から響く、恐怖。
包丁を下ろす手を止めて、銀鏡小綿は振り向いた。
「じんさん」
彼女の表情を見て、長峡仁衛はビクつく。
鉄仮面な彼女は、しかし長峡仁衛には優しい筈なのに。
その無表情は、長峡仁衛すら恐怖してしまう。
「ごはんは食べて来たのですか?」
この感情は恐らく……母親に叱られる前の、不穏な空気に似ていた。
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