第3話〈週末ですが?〉


そして週末が訪れた。

長峡仁衛は待ち合わせの場所へと向かう。


「お待ちしていました、先輩」


駒啼涙が近づいてくる。

その服装は何時もと変わらないセーラー服であり、長峡仁衛は見劣りしない彼女の恰好に逆に安堵を覚えた。


「じゃあ、行くか……どこに?」


長峡仁衛はこのお出かけの目的地は何処になるのか、駒啼涙に伺う。


「そうですね。今回のデートプランですが……」


駒啼涙は腕を組んで、指先を顎に触れて考える素振りを行う。

時折垣間見える彼女の舌先、その紋様が見えると長峡仁衛は彼女の口の中が気になって仕方が無かった。


「……では、今日はお食事に行きましょう。簡単に、腹ごしらえ程度にしますか」


そう言って、駒啼涙は自らのおすすめを長峡仁衛と共に食べに行く事にした。

甘味処『あまあま』。市街の外れ付近にある森林郊外に近い場所に其処はある。

老舗らしそうな店に長峡仁衛と駒啼涙は入っていくと、からんと音を鳴らして扉を開く。


「……甘い匂いだな」


染み付いた匂いに長峡仁衛はそう言う。

決して、その匂いがきついワケではない。

逆に甘ったるい匂いは体中の疲れを癒してくれそうなアロマセラピに似た効果が期待されるだろう。


「どうぞ先輩」


先に駒啼涙が席に座ると、長峡仁衛もその席に座る。

対面する二人。メニュー表を見る長峡仁衛はどれを食べるか迷う。


「パンケーキ……フレンチトースト……スイーツばっかだな」


「迷いますか?でしたら、私と同じモノを頼みましょうか?」


そう駒啼涙は言う。おそらく、彼女はこの店に何度も足を運んでいる常連だろう。

初めて来た長峡仁衛よりも、この店の味に精通している彼女が頼んだ方が、より良い甘味を味わえると思える。


「じゃあ、頼むよ」


そう長峡仁衛は言ってメニューを閉ざす。

駒啼涙は店員を呼んで「いつものを二つ」と革袋を付けた手で指を二本立てた。

やはり、この店にはかなり通っているらしい。


「何が来るんだ?」


「そうですね……注文したものが来るまで、当ててみてはいかがでしょう」


にこやかに言う駒啼涙。

成程、と長峡仁衛は頷くと、まず、彼女の好みを想定して言う。


「……チョコケーキか?」


「先輩、私の見た目で想像しました?」


図星だった。駒啼涙の黒い恰好からチョコを連想して、それに関連する食べ物をメニューから引き出したのだ。


「残念ですが不正解です」


「そうか……じゃあ、宇治金時か?」


小豆に抹茶味のソースを掛け、その上に練乳を綾模様に掛けた食べ物。

これも同じ様に、彼女の色から連想させたものだが、駒啼涙は笑みを浮かべている。


「惜しいですね。かなり近いです」


「かなりか……じゃあ……」


答えようとしたが、店員が近づいてくる。


「……残念ですが、どうやら時間切れの様ですね。正解は……かき氷です」


目の前に置かれるのは、イチゴのシロップと練乳が乗ったかき氷だった。


「…いや、正解じゃないか?」


「小豆とイチゴは別物ですよ、先輩」


駒啼涙はそう言うのだった。

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