第5話〈憑依〉
黄金ヶ丘クインは幻視する。
其処に立つ男は、確かに長峡仁衛であるというのに。
彼女の目に映る姿は、黄金の髪を靡かせる長身痩躯の男だった。
目を細めて、涙を浮かべて、彼女は幻視であると理解しながらも。
「―――兄、さん」
そう。呟いた。
長峡仁衛は、その手に馴染む士柄武物を構える。
巨大な剣は長峡仁衛と同じ刀身で、その重量は長峡仁衛よりも何倍も重たい。
だが長峡仁衛は片手でそれを持ち上げる。肉体に巡る洞孔に神胤を流す事で筋肉を活性化させ、身体能力を向上させていた。
「君は、一体だれを狙っているんだ」
柔らかな口調で、長峡仁衛は言う。
その手に握り締める士柄武物を肩に背負うと同時、神胤を大剣に流し込む。
黒刀と同じ要領で、神胤が磁力へと変換されていき、周囲の匣から展開された黄金の鎖が反応し出す。
更に長峡仁衛の影から同じ匣が多数生み出されると、それが厭穢を囲う様に動いて、かたん、と音を立てながら匣が十字架の様に開かれる。
そして十字架の中心から出てくるのは、先端が尖った無数の剣だ。
黄金の剣が厭穢に狙いを定めると同時、長峡仁衛の〈王璃覇琉魂・双極〉から放たれる磁力によって操作されて、厭穢に向かって射出されていく。
黄金の鎖が厭穢に巻き付く。行動を制限した直後に無数の剣が厭穢を祓うべく向かい出す。
しかし、厭穢は自らの手刀でその剣を丁寧に払い除ける。
「第二射装填―――穿て」
匣から出てくる槍や斧、鎌に長刀。多くの士柄武物が刃を向けて厭穢に放たれる。
周囲全体から、厭穢を蜂の巣にするべく放たれ続ける武器の総軍。
厭穢に焦りが見え始める。笑みは掻き消えて、ただ武器を払い除ける作業に必死だ。
「疲弊かな?それとも罠かな?接近しろと言うのなら、その通りにするよ」
放たれる武器の雨。其処に単身で接近して巨大剣を振り上げる長峡仁衛。
武器を弾いて隙を作り、長峡仁衛の攻撃を防御しようとする厭穢。
だが、何時の間にか床に置かれた匣が開かれて、その匣から槍が伸びた。
一瞬の間を突いて、厭穢の顎を貫いて頭部を穿つ槍。
その一撃で攻撃を止めた厭穢だが、後から来る長峡仁衛の巨大剣の一振りが厭穢を両断した。
それで終わりだった。厭穢は真っ二つになって、その場で行動を停止する。
核を傷つけられた為に、厭穢は消滅した。
残るのは長峡仁衛と黄金ヶ丘クインだけだった。
長峡仁衛は匣を影の中に収めると、黄金ヶ丘クインの元へと歩み寄る。
緊張が切れたのか、意識を失っている彼女に手を伸ばす。
その肌に触れて、長峡仁衛は安堵した。
「―――良かった、生きてる」
そう安堵した所で、長峡仁衛は後頭部を殴られた様な衝撃が訪れた。
そして、再び長峡仁衛は意識が戻る。まるで、先程まで夢を見ていたかの様に。
「あれ?俺、確か……匣を出して……」
それから先が分からない。
突如として、地面が揺れ出す。
核を失った幽世は、そのまま崩壊する。
幽世の中に居れば、道連れになるのだ。
急いで出なければならない。
長峡仁衛は黄金ヶ丘クインを背負って出口を探した。
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