第4話〈ヤバイ女〉
幽世に侵入する前。
進行を止めたのは黄金ヶ丘クインだった。
「じゃあ、早速入るか」
「お待ちになって……貴方の士柄武物は少し心許ないですわ」
黄金ヶ丘クインが長峡仁衛が先程見せた士柄武物に対してそう文句を言ってきた。
そういわれても、長峡仁衛には仕方が無いことだ。
「なんだよ、仕方ないだろ、これしか無いんだから」
そう。士柄武物はそれしかなかった。
厭穢を祓う事が出来る特別な能力を持つ士柄武物だ。
しかし護身用の士柄武物には特性は無い。
あくまでも、もしもの為の予備でしかない。
「はぁ……仕方がありませんね」
黄金ヶ丘クインは溜息を吐くと。
萌え袖から白い手を出して、地面に手を触れると。黄金の稲妻が迸る。
「うわ、地面が………」
地面を媒介に金統咒術式が作り出すのは黒色の小刀と白金のクナイ四本だ。
それを握り締める黄金ヶ丘クインは、長峡仁衛にそれを渡した。
「……どうぞ、黄金ヶ丘家が作る士柄武物ですわ。この小刀に神胤を流せば、他のクナイを自在に動かせるようになります」
と、その士柄武物の使い方も教えてくれる。
長峡仁衛はそれを受け取って確認する。
「マジか……原理はなんだ?」
長峡仁衛はこの小刀に神胤を流せばどうして他のクナイが動くのか気になっていた。
後、幽世の門付近で「幽世に入るの久々ね……」と言いながら九重花志鶴が門に近づいている。
黄金ヶ丘クインは、士柄武物の仕組みを教える。
「金統咒術式の応用でしてよ、神胤を流すと士柄武物が磁場として変換しますの。そしてその磁場は神縁によってクナイに繋がってますから、その磁場によってクナイを動かすんですの」
へぇ、と長峡仁衛は頷く。
正直、話の半分は理解出来なかったが、神胤を流せば動かせるという部分だけ覚えてればよいか、と思った。
「近づいたら入ってしまいますよ」
結界師が九重花志鶴に注意を行う。
「大丈夫よ、見るだけだから……」
そう言って幽世の門に接近する九重花志鶴。
「へぇ……けど、いきなり渡されても使えるかな?」
「心配ありませんわ。だって……」
その先を言おうとして、黄金ヶ丘クインは絶句した。
長峡仁衛は後ろを振り向く。
「?」
「あ」
と、拍子抜けな声が響いて、九重花志鶴が門の中へと入っていった。
「ちょッ!あのッ!!?」
慌てて取り乱す黄金ヶ丘クイン。
長峡仁衛はそれを呆然と見ていた。
「あ……入っていった……」
姿が消える。
九重花志鶴が、一足早く幽世へと落ちて行った。
「な、なにを考えてますのあのお方ッ!一応は上級生でしょうにッ!」
「黄金ヶ丘、何をそんなに怒ってんだよ」
黄金ヶ丘クインの必死の形相に長峡仁衛は落ち着くように言う。
「ッ~~~、そうでしたわね、貴方は、記憶喪失で何も分からない筈ですわ」
落ち着きを取り戻す、が、焦燥は残っていた。
「何かヤバいのか?」
「幽世とは、厭穢の捕食場で、体内の様なもの。その腹の中に入れば、どこにいるかなど簡単に分かります」
長峡仁衛は説明を聞いて確かに危険だと思った。
今、九重花志鶴は一人なのだ。もしも厭穢と出会えば、弱い彼女は最悪死んでしまうかもしれない。
「そうか、じゃあ今すぐ向かって合流しないと、危ないよな」
「ただ合流するだけならこれほど取り乱す事はありませんわッ、問題なのは、幽世に侵入した場合、侵入地点は人が入る度に違うのですッ」
それを聞いて、長峡仁衛は頭が真っ白になる。
「……それって」
「仮に今入っても、九重花さんと同じ地点に出る事はありませんわッ!あの人、弱いのにッ、どうしてそんなバカな真似をッ」
つまり。
長峡仁衛らが幽世に侵入しても、侵入地点が違う為に九重花志鶴と合流出来ない。
彼女を見つけるまでの時間に、厭穢と出会い、攻撃をされているかも知れない。
今、こうしている合間にも、九重花志鶴の命の危機がやってきている。
「危険じゃないか、あぁ、本当に何を考えてんだあの人はッ」
「早く行きましてよッ。流石に……見捨てるなどと言う非道な真似はできませんわっ」
「あぁ、行くぞッ!」
そう言って、二人は幽世へと侵入するのだった。
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