第5話〈潜入〉

幽世へ侵入。

内部は腐った魚の匂いがした。

骨と肉で出来た通路。足元にはぐちゃりと血肉が靴に付着する。


「気持ち悪いな……」


幸いか、その空間内は薄暗いだけで済んでいる。

奥に目を向ければ、暗闇が掛かっているが、手前に来れば来る程に、見えやすくなっている。


四本のクナイを指の股に挟み、もう片方の腕で黒刀を握り締める。


「姉弟子ぃ!!」


そう叫びながら長峡仁衛は走り出す。

通路は複雑ではあるが全ては繋がっている。

声が反響すれば、その声に九重花志鶴が反応する可能性があった。

だが、その声に反応するのは彼女だけではない。


「ッ、厭穢?」


薄暗い通路の先から出てくるのは、骨と肉がむき出しとなった人型の生物だ。

胸元には眼球が埋まっていて、充血した瞳が長峡仁衛を見ている。


「押し通るッ、退けッ!」


長峡仁衛は三本のクナイを投げる。

同時に黒刀に神胤を通すと、磁力が発生してクナイを操作する。


目の前に立つ生物に、磁力によって加速するクナイが剥き身の生物の体を貫いた。

長峡仁衛は走り続ける。生物の肉体に穴が開くが、それでも歩みを止めない。

ドロドロとした肉の腕を長峡仁衛に向けるとその腕が伸び出す。

腕は変形して牙が生えた口を作り出す。長峡仁衛の急所に向けて伸びていくが。

長峡仁衛は黒刀に神胤を流し込む。貫通して飛んで行ったクナイが生物の背後を刺した。

だが、生物は順応していた。背中から骨を生やして、そのクナイを貫通させずに塞き止める。


「貫通出来なかったんじゃないよ」


長峡仁衛は更に磁力を発生させる。白いクナイが生物を圧して地面に突っ伏させた。


「貫通させなかっただけだ」


土下座の様に地面に沈む生物。コントロールしていた腕の狙いは大幅にズレる。

長峡仁衛の走りは止まらない。残るクナイを投げて磁力操作を行い、生物の急所を貫いた。

厭穢の急所は核だ。その核は肉体を維持する為に必要なエネルギーが滞留していて、心臓や脳髄の様なもの。

傷つければそこからエネルギーが漏れ出す。強い衝撃を与えればエネルギーが暴走して爆散する。だから厭穢の弱点は肉体の何処かにある核だった。


ばふん、と生物の核を貫いた長峡仁衛。磁力操作でクナイを自らの元に戻すと以前変わらぬスピードで走り続ける。


(――――咄嗟の行動だったけど)


長峡仁衛は走りながら考える。


(俺の体、自然に動いてたな……経験が肉体に沁み込んでいる……のか?)


長峡仁衛の記憶が失っても。

体が行動を覚えているのか、そう思った。


(……なんで、俺、息をする様に磁力を操作出来るんだろ?)


そう不思議そうに考える。

使うにしては、あまりにも扱いが上手すぎる。

まるで、前々から使っていたかの様にしっくりとくるのだ。


(……いや、不思議じゃないか、黄金ヶ丘が俺の為に用意してくれたものだし、記憶を失う前に、俺にこういう磁力を操作する士柄武物を渡してくれたんだろう)


そう納得する。

しかし、何処か違和感があって、それを拭う事は出来なかった。

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