第3話〈結界師の呪文〉

運転手兼結界師が敷地内に侵入する。

とある住宅街。どれも同じような家が並ぶ中。

雰囲気が違う一軒家がポツンと建ってあった。

其処は、中世派の祓ヰ師の隠れ工房だ。

咒界連盟に拘束された為、彼の研究資料が流出されて、厭穢の生息が発見された。

祓ヰ師の大半は、己の研究や、地位と名誉を重点に活動する。

その祓ヰ師は研究に費やしていて、厭穢の研究を行っていたらしい。

複数の厭穢を重ね合わせて、複合的な能力を持つ厭穢を作ろうとしていたのだと。

部屋の前で、結界師がドアノブに手を掛けて、ガチャリ、と開いた。


「鍵掛かって無いんだ、意外と不用心だな」


長峡仁衛は扉を見ながらそう言った。

確かに、と、黄金ヶ丘クインは頷くが。


「不用心、確かに、慢心的ではありますが……人が入って来なければ、鍵などしても意味無いでしょうね」


意味深な事を言う。案の定、長峡仁衛はその言葉に関心を持った。


「?なんで入って来ないってわかるんだよ」


黄金ヶ丘クインは家の方を向いて、そして後ろを振り向いて手を伸ばして線を確認する様な仕草をした。


「風水的な理由ですわ。この位置は霊道が重なっています。一般人は、ここに家があるのは無意識に理解はしていますが、家に関心が向かない様に設計しているみたいですわ」


風水。長峡仁衛にはそう言ったものにはあまり知識は無いが。

それでも、位置を変える事で吉凶が変わる、と言う事だけは分かっていた。


「風水かぁ……なんだかまじないみたいだな」


「呪いもなにも、私たちは祓ヰ師でしてよ。あらゆる裏の事情は熟知していて当然ですわ」


ふん、鼻を鳴らす黄金ヶ丘クイン。


「うーん……記憶を失う前の俺は博識だったのかね」


そんな事を考えていると、隣から声が響いた。

九重花志鶴だった。自信満々に、かつ誇らしげに答えてくれる。


「少なくとも私と同等ね」


「それはすごいのかすごくないのか分からない感じですね」


素直な感想だった。


「どういう意味かしら?」


九重花志鶴のアイアンクローが長峡仁衛の顔面に食い込んでいく。


「ぎっぎぶッ、ギブッ!!」


九重花志鶴の二の腕を叩いて叫ぶ長峡仁衛。

そんな二人をしり目に、黄金ヶ丘クインは結界師に命令をする。


「情報では厭穢は幽世に居ますわ。なので、お願いします」


そう言うと、結界師は頷く。

白いスーツを着て、清潔感のある結界師は白の手袋を装着すると、指を絡めて印を結ぶ。


「 〈彼の世あのよ此の世このよを繋ぐ門〉」

「〈顕世うつしよより常世とこよへの黄泉路よみちを開き〉」

「〈稀人まれびと今世いまよに帰し給え〉」


言葉によって、家の扉の前に幽世に続く門が形成される。

これで、幽世に向かう準備は完了した……のだが。

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