第2話〈キャットファイト〉
二人は車に乗り、目的地へと到着する頃には深夜だった。
到着すると、既に黄金ヶ丘が居た。
「あら、九重花家の」
長峡仁衛と、すぐ傍に居る九重花志鶴に顔を向ける。
「んふ、どうもクインちゃん」
「……そのちゃん付け、止めて下さいまし」
彼女の反応に九重花志鶴は面白そうに猫撫で声で名前を呼ぶ。
「可愛いと思うけれどダメなのかしら?クイ~ンちゃん」
「……はあ、まあ、良いですわ……それよりも」
黄金ヶ丘クインの視線が、長峡仁衛に向けられる。
「ん?」
「来てたんですのね、長峡さん」
その目は祓ヰ師としての目だった。
この仕事で、使える人間かどうか見定めている。
「あぁ」
「術式は使えるんですの?」
使えるかどうか、そう聞かれて長峡仁衛は服の裏に縫い付けた士柄武物を取り出す。
「え?いや、まだ使えないけど……一応、護身用の武器はあるよ」
小型のナイフ。これに神胤を流せば厭穢に有効な武器に代わる。
「護身用で良く来ようと思いましたわね……いえ、任務通知は強制でしたから、断るのも無理な話、仕方が無い事だとは言え……」
術式を思い出す前に仕事が来てしまう事はしょうがないが。
しかし、と。今度は九重花志鶴に目を向ける。
「九重花さん、貴方は九弁花を連れて無い様子ね」
「えぇ。今日の私は仁が居るもの」
そう言って九重花志鶴は長峡仁衛の腕に絡み付いた。
柔らかな彼女の胸部が長峡仁衛の腕に当たる。
「わ、ちょっと姉弟子ッ、胸が腕にッ」
「ワザとよ。私のマシュマロを体感しなさい、んふ」
それはまるで、見せつける様に。
長峡仁衛が赤面して、九重花志鶴を意識しているのを黄金ヶ丘クインに見せていた。
「………」
(あぁ、ヤバい、キレてるよ、黄金ヶ丘ッ)
長峡仁衛でも分かる彼女の殺気。
黄金ヶ丘クインは一度目を閉ざして、ゆっくりと息を吐く。
「……ふぅ、挑発でもしているのでしょうか?浅はか、とでも言いましょうか」
「挑発?あらごめんなさい。そういう風に見えた?」
いたずらっ子の様な笑みを浮かべて、九重花志鶴な長峡仁衛の肩にこてりと首を傾ける。
「いえ、謝る必要は御座いません。所詮、貴方は長峡さんの人生の中途にある休憩所の様なもの。最終的に、到達点に立つのは私なので……どれ程好いても、貴方が彼と同じ人生を歩むことは出来ない……どうぞご存分に彼を抱けば良い、けれど、貴方は彼の一番にはなれないのですから」
長文に九重花志鶴は理解するのに数秒掛けて。
「………んん?ねえ長峡。あれって私、挑発されてるのかしら?」
そう長峡仁衛に聞く。
「え?あ、多分……話の内容からそうじゃない?」
「んふ、やっぱり、そうみたいね………」
余裕の表情を浮かべる九重花志鶴は、ゆっくりと長峡仁衛の手を離した。
そして……鬼気迫る表情で黄金ヶ丘クインに牙を剥く。
「むきぃっ!あの女ッ、私に対して舐めた口効いてくれたわねっ!上等よ、キャットファイトで蹴りを付けてやるわッ!」
「挑発弱いなこの人ッ!落ち着けって姉弟子ッ!!あまりの挑発の弱さに黄金ヶ丘も若干拍子抜けだよ!」
長峡仁衛は事前に九重花志鶴の行動を察して彼女の腹部辺りに手を回した。
そしてがっしりと掴んで九重花志鶴が黄金ヶ丘クインに向かわない様にホールドする。
「離しなさい仁ッ!あの澄ませた女に私がどれ程面白い女なのか叩き込んでやるのよっ!このっ!……力強いわね、仁ッ!」
けど、九重花志鶴は弱かった。
「大丈夫だから、姉弟子は十分面白い女だからッ!」
なだめる様に長峡仁衛は言うのだった。
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