第1話〈任務通知〉

リビングに通知書が置かれていた。

自分宛の通知書を受け取り、茶色の封筒を開けて中身を確認する。

すぐそばにいた銀鏡小綿が、中身を共に確認しだした。


「通知……咒界連盟の方からですね」


「内容は……任務?」


通知の内容を確認して、隣に居る銀鏡小綿が紙を受け取る。


「見せて下さい……これは、……少しだけ安心しました」


内容を確認して銀鏡小綿はほっと息を漏らす。


「任務がか?」


「単体の任務では無く、複数に任務通知が発送されている様子です。しかも、志鶴さんと黄金ヶ丘さん、両名がご一緒だとは心強いです」


九重花志鶴と黄金ヶ丘クイン。

この二人は陰陽師に直伝の術式を教わったとされる名家だ。

二人の名前を確認して、長峡仁衛は九重花志鶴の名前に引っかかる。


「……ん?姉弟子も来るのか……」


姉弟子。

彼女は確か、弱い事で有名だった筈だが。

銀鏡小綿は安心して下さいと笑みを浮かべる。


「大丈夫ですよ。あの人は。弱いですが、付いてくる人間が居ますので」


「ついてくる?」


そう長峡仁衛は首を傾げた。


「九弁花。九重花家の九つの分家。その総称です。志鶴さんは術式を継承しませんでしたが、その代わりに九弁花の指揮権を持っているのです」


九重花志鶴は、分家の中から選んだ精鋭部隊を作っていて。

彼女は弱いが、その取り巻きが上位に組み込む程の実力を持っている。


「へぇ……」


「ですので、今回の任務は気軽にご参加してみては如何でしょうか」


普段、長峡仁衛が危険な目に合うとすると我先に自らを盾にする銀鏡が安心しても良いと言っているのを見るに、本当に危険は低いようだった。


(そっか……なんか拍子抜けだけど、安心したな)


長峡仁衛は緊張感が抜けて安堵の息を漏らした。

そして夕方。校門前に停車する車の前に、九重花志鶴と邂逅して一番に。


「九弁花?今日は連れて無いわ」


「え、えぇッ!?ちょ、それ、大丈夫なんすか?」


長峡仁衛はそこで狼狽えた。

任務だというのに、彼女の能力とも言える九弁花を連れて来てないなんて、任務に対する油断さを感じられた。


「ふふ、大丈夫に思える?こう見えても私、か弱い女性なのよ?」


そう言って九重花志鶴は人差し指を立てて柔らかな唇に押し当てる。


「弱いのは知ってますけど……」


しかし。

大丈夫なのだろうか。

これでは、任務の難易度が変わってしまう。

そう困惑した長峡仁衛に、九重花志鶴は目を細めて核心を突く。


「もしかして、仁。貴方、私に期待でもしていたのかしら?」


「え……」


唐突に冷めた口調で言い放つ。

長峡仁衛の心臓が高鳴った。

九重花志鶴の言う通り、彼は彼女の権威の傘に入ろうとしていたのだ。


「貴方、一応言っておくけど。最後の最後で信用出来るのは自分の力なのよ?誰もが親切で、貴方を助けようとは思わない。誰かに力を求めても、それが適う事は無い……結局は一人なの、仁」


諭す様に、九重花志鶴は告げる。


「姉弟子……」


「ふふ、感動したかしら?」


笑みを浮かべる九重花志鶴。

長峡仁衛は、その言葉を、何処かで聞いた様な気がした。

そして、長峡仁衛は記憶の奥底から蘇らせる。

その言葉をどこで聞いたのかを、そう、それは、昨日のテレビだった。


「それなんかテレビで聞いた気がするんですけど……」


異能バトル系の実写ドラマで、そんな格好良い台詞を発していた気がする。

それを指摘すると九重花志鶴の真剣な目は溶けて柔和に変わる。


「受け売りよ。私も感動したから自分の力でどうにかする事にしたの」


だから九弁花を連れなかった。

合点が行った長峡仁衛は、しかし馬鹿らしいと思った。


「それで死んだら意味ないでしょ」


「平気よ」


ふふん、と笑みを浮かべる九重花志鶴。

車の扉に手をかけて、後部座席に座ろうとする。


「どっから湧いて出るんですか、そんな自信」


「んふ、だって。仁が守ってくれるでしょ?」


座ろうとする前に、九重花志鶴は振り向いて、そういった。

完全に、面食らっていた。長峡仁衛は、そう返してくるとは思わなかったから。


「っ……はは、姉弟子」


しかし。

そう言ってくれるのならば。


「早速誰かに力を求めてんじゃないですか」


守らなければならない。

こんな、無邪気な彼女を、殺したくないと、長峡仁衛は思った。

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