第6話 服を買いにデパートに行く
勝から突然電話がかかってきた。普段、連絡をメッセージで済ましているだけあって少し違和感がする。
「何?」
「琢己?今度、ていうか明日服買いに行こうぜ」
「明日?明日は…」
「日曜日。大丈夫だよな。」
僕は考える仕草をして、大した用事がないことを認めると大丈夫と口にした。
電話からは勝の喜んでいるような口調が聞こえてきた。楽しみにしてるよ、昼飯代持ってこいよ。と言って通話は終わった。
翌日の日曜日、晴れ渡っている空を見て春なのかそれとも夏なのかと疑問に思う。
僕は指定された集合場所に行くと、5分早く着いていることをスマホを見ながら考えると小説を読み始めた。
勝は少し遅刻する。それは中学の頃から変わらないことだった。
しばらく立ったまま小説で時間を潰していると、勝がやってきた。
「ごめん、遅れた。相変わらず早いな」
勝はいつ見ても服が変わっているようだ。勝の服を見ると今の流行はこんなのかと確認できる。ちゃんと記憶はしていない。勝はどんな服が好きで、どんなのが似合うか。
「琢己、それ」
と指さした先には僕の着ているパーカが見える。
「ん?」
「それ、高校から変わってないな」
「うん、そうだね」
勝はそれは流石に買った方がいいなといった。まるで、今日の買い物が奇跡的にタイミングが良かったかのように。意味あり気に僕をぐるっと回ると、なんとかなるかと独り言を呟いた。
「さぁ、行こうぜ」
歩いて行ける距離にショッピングモールはある。ここら辺では割と大きいところだ。会社にも歩いて行けるほどの距離のところにあるから、よく勝と仕事終わりに遊ぶに来ていた。僕はここら辺に住んでいるが、勝は一つ降った駅の近くに住んでいる。だから、一度勝がベロベロによったときは大変だった。駅まで担いで行ったが、どうも危なかしい感じがしたので僕の家に引き返して、翌日始発で帰ったことがあった。
中はよく見る広いエントランスに、各フロアに向かうためのエレベーターやエスカレーターが見える範囲にある。
冬になると、この広いエントランスにでかいクリスマスツリーが建てられる。クリスマスの時だけ、この辺に住んでいる子供達がクリスマスツリーの前で歌を歌うのが最近の恒例行事となっていた。何回か、エントランスにあるピアノで伴奏をお願いされたことがある。そのほとんどが、勝が無理矢理僕を売り込んでいくのが原因だった。
そんなことを目の前にあるグランドピアノに触りながら勝が言った。
「懐かしいね。」
「最近は駆り出せれないのか」
「生憎、それは勝のおかげだからね。」
「そりゃどうも」
そんな冗談話をしながら、僕らはエレベーターで4階に向かった。
扉が開かれれば、照明が剛性に焚かれたフロアを目にする。
「そんな目を細めなくてもいいじゃないか」
勝は僕の顔を見ると面白おかしくいった。
僕は眩しくて目を細めたのもあるが、見慣れない空間だったからだ。いつも行くのは9階だった。
「さ、どんな服が似合うかな。」と探し始めた。
最初はシックな感じの店に入った。
「これはどうだ」
と適当に手を取った服を僕に合わせる。
「うーん。違うな」
また、適当に取った柄のものシャツは縦に線をが入っていた。
「これも違うな。」
次はズボンのところに行く。適当にとったズボンを合わせるも、勝は合ってないと判断したらしい。さっと合わせては、さっと戻すを繰り返すうちに、次に行こうと言った。
次は絶対に僕が縁がなさそうな個性的な店に入った。
どれも見たことのない柄や、全体的にダブッとした服が目についた。
早速合わせた服には、悪くないな、と呟いている。
僕はマネキンの如く、同じポーズをずっと維持し続けている。ポーズといっても、ただ立っているだけなのだが。
「ここの服、なんかすごいね」
と言語化できない異国感を口にしてみたが、そうかと勝は言った。
「勝は、こんなところ、しょっちゅう来るの?」
「うーん、俺自身が似合うところに行くからな〜こんな感じの店は久しぶりかな。ほら、大学の時ちょっと中良かった人いただろう?先輩で」
「ああ」
しかし、その人の名前は覚えていない。確か、紹介はされたけどそれきりで僕は親交がなかった。
「あの人、こんな趣味があった。」
関心も興味もない話題をへーと聞き流す。勝も空返事を気に止めることなく、せっせと服を合わせている。時折、独り言も聞こえてくるけど僕は聞いてないふりをしていた。
鏡に映る僕は僕じゃないみたいな気がした。しかし、いつも感じていた服に切られている感じは伝わってこなかった。
「じゃ、次に行こうか。次で最後にしよう。もうちょっとで昼だ。あまり、いっぱいみても決まらなかったら意味がない。興味を持ったら買いにこればいいし。」
「そうだね」
僕は音楽のことを考えていて上の空だった。
次に入ったお店はカジュアルなお店だった。
「僕、こんな感じの服がいいな。着やすいし、これに似てるし」
「それじゃ、いつもと変わらんだろうが」
「でも、別にそんな服いらないしな…」
「まぁ、確かに琢己の趣味らしいし、一番目に馴染む。けど、なんか違うんだよな。」
合わせながら、また勝は独り言を言い始める。
なんか今日の勝は浮き足立っている気がする。楽しんでくれていることはいいことだし、僕も楽しい。しかし、何か違う気がしてならない。
僕は、そんな勝を遠い目で見ていた。
「よし、わかった。これは夏物だから、また冬物ときはそのときに買いに来るとして。」と言って、近くにあったスリムパンツの長いものと短いものの二足持ってレジ向かった。
「勝、僕が着るんだから僕が払うよ。」
勝は出した財布をしまう気配なく、
「いいよ。奢るなら、次のお昼でよろしく。誘ってのは俺だからな」
と笑った。僕は勝に甘えて財布をしまった。
その後、回ってきた服屋で勝が選んで買ってもらった。
柄が特徴的なシャツと半袖のシャツ。後、薄手のオーバーな服を何着か。ついでに、靴下は頼んで買ってもらった。
「よし、昼飯にしよう」
勝は財布を鞄にしまって言った。
昼はお好み焼きやに入った。勝はどうやら用事があるようで、買い物が主だった目的だったらしいからあっさりと帰った。
僕は本屋さんにでもよって帰ろうと思った。
この前、梅澤さんからお薦めされた本を思い出した。「喜びに浸る一般人」という本を探そうと思った。一聞すると物騒な評論かと聞くと、皮肉の効いたナイスな小説と返ってきた。
僕は梅澤さんには興味のないとうけたられる返事をしたが、小説コーナーでそれを見つけると少し興味が湧いてしまった。
僕は、前から欲しかったバンドのスコアと梅澤さん推薦本を持ってレジに行った。
僕は帰ってくると、迷わずピアノの前に座って買ってきたばかりのスコアを開いた。推薦本は後で、目を通そうと思って机の傍に置いた。
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