第4話 頼って欲しいー1

 出勤すると嫌な視線が刺さっていることに気がつく。僕は、半ば恐怖を覚えながら3日ぶりのデスクに腰をつける。隣の席の人が椅子を転がしてくると、梅澤さん昨日すんごい怒ってたよ。と眉尻を嫌な角度に上げて言った。僕はちらっと梅澤さんを見た。

 鋭い眼光がこちらを見ていた。すぐに目を離した。隣の人に、あれはまずいですよ。僕殺されますよ。ハンターの目をしてますよ。と言うと、隣の人はクスクスと笑った。あなたって意外に面白いね。と言った。

 僕は曖昧に笑いながら、パソコンを開いた。

 メールが何通か来ていた。

 メールには取引先で仲の良い人が風邪を心配してくれているメールや、いつも部長が気を遣ってくれているメール。そして、見慣れないメールアドレスが並んでいた。しかも、一番上に来ていた。

 社内メールだから、会社の人とはわかる。中を開けて文に目を通していくと、最後に梅澤の文字があった。

 僕は驚愕した。今まで読んできた文面の内容が全部飛んでしまった。

 あたふたとしている僕を、隣の人は怪訝に見ていた。スマホを持って部署の部屋から飛んで出た。途中で部長と会ったけど、大き声で挨拶して通り過ぎた。

 トイレへと駆け込み、個室に入る。急いで、勝に電話をする。

 「ん、どうした」

 気の抜けた勝に対して、捲し立てる。

 「勝やばいよ、梅澤さんから直々にメールが入ってる。朝来たら鋭い眼光で僕を見てたし。やばいよ。」

 「落ち着けよ、なんて書いてあった?」

 「えっと」

 僕は落ち着いて飛んだ内容を思い出す。

 「…部長に休みの連絡入れても構いませんが、同僚として私にも入れてくれると助かります。あと、塞ぎ込んで考えるくらいなら仲良くないですが私に相談してもらっても構いません。仕事のことが中心になりますが。」

 「ふーん。上出来じゃん。」

 「何が。何が上出来なんだ」

 「部長以外にも、お前のこと知ってくれようとしてる人が居るんだ。しかも、自分から名乗り出てくれてるんだしいいじゃんか。」

 「でも、僕は望んでない」

 「時には、強引な言葉もいるぞ。部長一人で誤魔化しを頼むのもちょっとな。部長も、ちょっとわからんところがある。でもきつく言えないって言ってたぞ」

 「そうなのか」

 「ああ、部長、いとこさんを見て観察してるらしいがわからんものはわからんと笑ってた。そんなこと考えてる人間の脳に俺の脳は追いつかん、とな」

 「そうだったんだ。」

 「だから、頼ってくれって言ってんだから、少しは頼ってやれよ。他の人たちによるとそういうことは他の人にもしてるぽいしさ。慣れてると思うぞ。」

 僕は個室中で陰を落とした。

 そんなことできるわけない。

 「悪りぃ、ちょっとでしゃばりすぎた。とりあえず、頼ってみたらどうだ。返信でもしてみたら?」

 「とりあえず、そうしてみるよ」

 「おう、お疲れさん」

 通話を終えると、黒いものが僕を埋め尽くしていた。

 頼れと?

 そんな感情だけが頭の内側から僕の期待を攻撃し始める。

 うるさいなぁ。黙れよ。何もわからない癖に。お前みたいな人間に何ができる。

 期待は一瞬の内にその姿を消した。もうあの頃のようにはならない。

 僕はため息をつくと黙って個室を出た。

 酷い攻撃的な心とちょっとの希望が僕を無理矢理両側から引っ張る。心がゆっくりと裂けて傷を作る。鼓動のたび楽な心理はないかと模索する。

 デスクに戻ると、梅澤さんと目が合った。心配そうな目を僕に向けていた。

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