第6話
アリアンナの荷物は結局、馬車三台となった。
侯爵令嬢として王城に入るには持ち物少し……どころかかなり少ないかもしれない。
まぁそれに関しては初めから増やす予定もなかったので、気にはならないが……
(……お父様)
荷物のすべてが大なり小なりの箱に収められているのだが、そのどれもにキャセラック家の紋章が入っている。馬車一台分とはいえ、とても今回の登城に合わせて用意出来た量ではない。多分、嫁入り道具の準備で前以て作らせていたものだろう。
(これじゃ家名が隠せない……)
従者達が荷解にほどきをしているのを、一抹の虚しさを感じながら眺めていると、王城の正面の大扉が開き、中へと招かれた。
到着を告げる自分の名が呼び上がり、アリアンナが入ると王城の出迎えの者達が両端に並んだまま一斉に深くお辞儀をする。
その中で侍女達を従い、一際背筋の正しい女性が一人前に出てきて、ドレスの両端を摘み腰を深く落とした最高礼をしてくる。
彼女は腰を落としたその姿勢のままで、アリアンナへの歓迎の言葉を告げた。
「ようこそお越し下さいました、アリアンナ・キャセラック様。女官長を務めさせて頂いております、リース・ハンプトンと申します。以後、王城での一切で不都合などがありましたら申し付け下さいませ」
姿勢を戻すと、一歩下がり
「アリアンナ様付き侍女達の侍女頭になります、ミシェルでございます。アリアンナ様の王宮での生活に支障なきようお世話させて頂きます」
他の侍女達から一歩出て来た娘を紹介してくれる。
「心配りのある待遇、感謝します。ミシェルさん、これから宜しくね」
女官長に返事を返しながら、中腰で頭を下げている侍女にも声を掛ける。
そうして、簡単な挨拶を交わし終えると「ご案内致します」と、女官長を先頭に王宮の奥へアリアンナの一行が移動を始める。
王宮へは年に一度、年初めの王室主催のパーティーにしか来たことがないので、というより絶賛自主的引きこもり中の身なので、王宮内部へは入るのは初めてだ。
表向きの煌びやかな場所から、歴代の王達が等身大で描かれた肖像画がずらりと並ぶ長い祖先の間を通り抜ければ、豪華さを残しつつも落ち着いた雰囲気の奥向きの居住棟となる。
なお歩き続けた後、女官長が両開きの扉の前で立ち止まる。
「アリアンナ様のお部屋はこちらになります」
両開きの扉が開かれ中へ進むと、これから自室となる部屋は、淡い緑で統一された壁紙がとても美しく、ところどころ金の装飾が施され落ちついた中にも豪華な内装の均衡が見事で極めて好感が持てる。
「いかがでしょうか?」
「とても気に入りました。女官長様がここを?」
応接間となる室内の調度品は、楕円の卓に、一人掛けの椅子五脚、長椅子と濃い緑に金の縁取りの家具で壁紙との対比が鮮やかに映る。
そのまま、奥の部屋へと進み、寝室に衣裳部屋と見て回る。
「様はおやめ下さい。キャセラック侯爵様よりアリアンナ様のお好きな色を伺いましたので」
女官長が扉の前で控えながら返事を返す。
アリアンナは荷物を持ってきた侍従達と入れ替わりに応接間へ、女官長とミシェルの前に戻る。
「とても素晴らしいお部屋で好ましく思います、どうもありがとう。これからは女官長とお呼び致しますわね」
アリアンナが言えば「その様に」と頷きを返される。
その後も部屋の仕様や注意点などをアリアンナに教え、そうこうしているとあまり荷物がない為に、全ての荷を運び入れ終わった事を侍従から告げられ最後の退出の挨拶を女官長がする。
「それではアリアンナ様の王城での生活が良き日々になられますよう」
並んだミシェルと共に敬礼の腰を落とす。
「ありがとう。私こそ色々至らぬことがあれば教えて頂きたいわ。頼りに致しますわね」
「畏まりました」
女官長は並んだミシェルと共にお辞儀をしたが、それをアリアンナが引き留める。
「ところで、私以外の……その候補者の方は何人いらっしゃるのかしら?」
「お二人でございます」
(……以外に少ないわね……)
「そう。ありがとう」
「お二人ともまだお着きになられてはございませんが、是非アリアンナ様からお声を掛けて頂ければと思います」
「えぇ。仲良くさせて頂きたく思っています」
笑顔で返すと、女官長も笑顔で腰を落とした。そして今度こそ「失礼致します」と退出して行った。
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