第287話 LV287 潜む厄災

 ロープで縛られ横たわるゼウスは皆に蹴られていた。


「痛い、痛い」


「や、やめてー」


「反省してるのだ、勘弁してくれ」


 厄災の原因の全てはゼウスにあった。ゼウスがこれまでに浮気した女神の数は数百。そのうち、異なる地上界や過去の勇者により排除された数を引くと残り89。12神(ゼウスを除く)の間ではゼウスを馬鹿にする意を込めて、89やくさいと文字られている。89の恥晒しという意味だ。多くの神は「正」の感情しか持ち合わせていない。その神が「負」の感情に支配されると冥界へ落ち神となる。しかし、神の中には「負」の力に支配されず、自身で消化できる者がいる。自身で消化された恨みは神の元を離れやがて「呪い」へと変わる。その「呪い」こそが厄災である。


 ヘーラーは今回、第238地上に発生した厄災は全部で32個だと言う。


「ほぼ、三分の一じゃない!」


 *イルイルはツッコんだ。


「そう、その全ての厄災がこの暗黒大陸に潜んでいるのです」


「そいつをひとつずつ見つけて排除しろと?」

 ライガは尋ねる。


「その通りです」


「そんなの無茶だぜ。暗黒大陸って大陸の半分を占める広さもあるんだぜ」


「そうよ。だいいち、フミヤがいないと攻撃が通用しない敵もいるでしょ」


 ゴウリキとシキートは身振り手振りで必死にヘーラーへ訴えかけた。


「勇者の攻撃は通用しますよ」


「えっ?」


「あなた達勇者は、何のために『勇者闘気』を習得したのです? 『勇者闘気』とは万物に通用する力ですよ」


「へぇー」

 フミヤはヴィオラをチラッと見た。


「やるしかないって事ね」

 

「その通りだ」

 ダンはイルイルの頭に優しく触れた。


「コラ! 私は子供じゃない!」


「とりあえず、一旦休憩しながら作戦会議だな」

 レイモンドは適当な大きさの岩に腰を掛けた。


 トーレムグレイグ勢とゴータスフール勢は、作戦会議により再び別行動をする事とした。そして、いくつかの取り決めを行う。


 緊急回避のため全員の手に魔法転移の魔法陣を付与する。(不測の事態が起こった際には現在の場所に避難する。


 厄災を発見しながら、その地に転移魔法陣をマーキングする。ゴータスフールではシキート、トーレムグレイグではファリスがそれを担当する。


 トリニスタント勢と合流の際には、経緯を伝える。


 『意思疎通魔法』を使用し、一日に一度連絡を取り合う。


 以上が作戦会議で決まった内容である。『意思疎通魔法』とは現代で言う電話や携帯の通話機能である。最高難易度の魔法であり使える者はごく少数の魔法だ。転移魔法の応用版であるがため、このメンバーではファリスとシキートしか扱えない。トリニスタント勢においては、エミリーのみが使用できる特殊魔法である。


 皆は時の羅針盤を手に話を進める。


「とりあえず、10日たったらこの地へ行ったん集合しましょう」


「ああ、そうだな。それまでに死ぬなよ」


「大丈夫です。あなたこそ、ご無事で」


「フッ……誰に言ってるんだ」


 ヴィオラとレイモンドは握手を交わした後、それぞれ仲間を連れ別々の道へと歩き出した。


 ヘーラーは再び神の間へと帰って行く。


「おーい」


「おーい」


「誰か-」


 *ゼウスは放置されている。


「ワシはどうなるの?」


 *ゼウスは放置されている。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る