第10話 約束
家に送ってくれると言うので、伊山君の車に乗った。
彼は「紗奈さん、今日で最後でしょ、高台へ行こうよ。」
私は少しでも一緒にいれる時間が長くなるのが嬉しくて、頷いた。
彼が連れて来てくれたのは以前と同じ高台だった。
「トワイライトタイムって知ってる?日の入り15分から20分の間を言うんだ。空の色が赤からオレンジ、青と変わっていくんだ。この景色は幻想的なんだよ。キラキラしていた海が、陽が沈んで漆黒海になる。」
「この前は暗くなってたから、この時間と印象が全然違うのね。過ぎゆく時間の流れを肌で感じれるにね。
でも、とても切ないわね。人生の終焉みたい。」
「前にも言ったけど、ここへは自分と向き合いに来てるんだ。人生は、最後には一人で乗り越えて行くと思っていたから。誰かと一緒に見たいと思った事が無かった。
一緒に見たいと思ったのは、紗奈さんが初めてだよ。」
「こんな時やっぱり、あなたは僕の特別な人なんだと思う。」
彼は真っ直ぐに私を見た。「好きです。今は無理でもいつか息子さんが成人したら、僕と一緒に生きて欲しいんだ。」
私は「そんな日が本当にきたら嬉しいけど、私は伊山君には本当に幸せになって欲しいの。ちゃんと家庭を持って子供を育て、家族を作って。普通の幸せだけど、かけがえのない幸せを知って欲しい。私を待ってたら、子供を持てないわ。子供を産んで思うけど、こんなに価値観の変わる人生経験はないわ。感性豊かなあなたにこそ、ちゃんと経験して欲しい。」
彼は大きく首を振り
「世の中にどれだけの夫婦が子供を持てなかったり、持たなかったりしてると思う?本当にその夫婦が幸せでないって思う?」
私はハッとさせられた、子供を持つことだけに囚われて私は夫婦としての幸せを失ったのだ。
「僕はあなたといる事で、今回作家として成長できたと思う。これからも僕の制作の活力になるのは、紗奈さんの存在だと思う。だから、あなただけの価値観で僕の幸せを決めて欲しくない。」
私はしばらく何も言えなかった。私の思いは自己満足だったのかもしれない。
「そうね、私が間違っているのかも。でも、きっとあなたの周りの人々を悲しませる結果になると思う。そんな選択をして欲しくないと思う反面、我ままだけど伊山君と生きたいと思ってしまう。」
「主人と話し合うわ。慶太が大学生になったら、離婚出来るように。その時、伊山君が独り身で、まだ私を想っていてくれたら、その時は一緒に生きたい。」
伊山君は嬉しそうに笑って
「初めてだね、紗奈さんが自分の欲求を口にしたのって。」
私は初めてこの言葉を口にした。「伊山君、大好きです。」
彼は今までに見たこと無い満ち足りた笑顔で微笑んだ。そして、私達は初めてのキスをした。お互いを慈しむ優しいキスだった。
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