第9話 10日間

 彼との時間は10日間。この時間は、彼を一番に自分に素直に過ごそうと決めていた。

仕事は一週間休みを貰った。もともとグループ展に向け休みを取る予定だったので、調整は直ぐにできた。

午前中はグループ展へ向けて自分の準備、午後は彼の制作手伝いや食事の用意をした。


 アトリエに行くと国近さんが玄関で立っていた。

「どうして、晴人と一緒にいるの?あなた結婚してるのに。」

「分かってる、少しだけでも一緒にいたかったの。ごめんなさい、身勝手だということはわかってるわ。」

国近さんは私の顔見て、深いため息をついた。

「あなたが消えた後、晴人はどうなると思う?」そう言って国近さんは、出ていった。

 アトリエの皆には、伊山君が説明してくれたようで、誰も二人の事を詮索することは無かった。


私達は少しの時間も惜しむように一緒過ごした。

二人でいるだけで、モノクロの日々が色づいて毎日が新しい事の発見だった。毎日が刺激的な連続だった。

画材の買い物から、グループ展までの準備を本当に二人で大切に過ごした。


 私達は決して触れ合う事は無かった。

間近で彼の制作活動を間近で見ることは、本当に素晴らしい体験だった。まるで彼の息づかいか聴こえてくるような、体温が感じられるようだった。その場に居るだけ、触れ合うよりも彼の存在を近く感じる事ができた。

 伊山君の作品は今までの包み込む優しさに、人間の醜い部分や負の感情、人を愛しむ感情が入る事で、更に厚みが出た。

彼は、確実に成長を手に入れた様だ。


しかし、幸せな時は、あっという間に過ぎた。

 明日はいよいよグループ展のオープニング。全て万事整った。

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