第8話 衝動

「え、なんで?」

「僕は今まで誰にも執着したことなんか、無かった。付き合っても別れをきりだされると、素直に応じてきた。

手に入らないと分かっているものを欲しいなんて思った事なんかない。ましてや誰かの家庭を壊してまで、奪おうなんて思ったこともない。」

「こんな気持ちは初めてなんだ。」彼は真っ直ぐ見つめて言った。

 私はこみ上げてくる嬉しさ、幸福感を隠し自分を制するしかなかった。どう考えても私といることは、彼の幸せにつながるとは思えなかった。

「何言ってるの、見てよただのおばちゃんよ。それ以上ではない。そして、何より私には守るべき家庭がある。これだけは揺るがないわ。」

彼は切なそうに私を見つめ

「僕は神崎さんを綺麗だと思っている、でももし、他の人にはおばちゃんに見えても関係ない。僕はあなたの感性、生きる姿に引かれてる。見た目なんて、人の本質ではないんだ。」

「そして 痛いほどわかっている、あなたは絶対に家庭は捨てない 。僕を選ぶことはない、先に道はない。だからこそ、今こうして苦しんでいるだ。」

 私は今すぐ彼を抱きしめたくなる気持ちを抑えて、「あたにの気持ち嬉しいわ。でも 、これは一時的なもの。いつか必ず、素敵な、誰もに祝福される恋に出会えるわ。私とでは駄目。」

 彼は自虐的に笑い。「苦しんでるんだ、グループ展を目の前にして、頭の中はあなたでいっぱいなんだ。初めてで、コントロールが効かない。」私は間違っていることは分かっていながら、苦しむ彼を目の前にして、言った。

「私は全力でサポートするわ。今はグループ展を成功させる事だけ考えて。」

「グループ展をなんとか乗り越えたい、皆を巻き込みたくないんだ。もし、少しでも僕に対して特別な感情があるなら、グループ展まで、一緒にいてくれ、頼むよ。」

 彼の心の叫びが心に刺さった。私は頭では絶対に頷いてはいけないと分かっていても。私は無意識に頷いていた。私も彼に恋していたのだ、気づかいないふりをしていただけ。

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