第2話再会
しばくして、五月晴れのある日、祖母は老人ホームに入るといった。誰にも迷惑を掛けたくないが口癖だった祖母は、自分で友人と二人仲良くホームに入居する手続きをしていた。
別れの際、「紗奈、今までありがとう。迷惑掛けたね。これからは自分のやりたいことをおやり。人生はあっと言う間だよ、楽しまなきゃね」と言って笑顔で引っ越していった。
長かった梅雨も明け、いよいよ蝉が鳴き始めた頃、彼に再会した。
私がパートで花屋で働き出して、半年を過ぎた。せめて仕事だけでも好きなことが出来ればと、青年とのあの出来事の翌日、仕事を変える決心をした。そして、ずっと興味のあった花屋に勤めだした。
ある日画廊から、アレンジの注文がきた。店長が
「紗奈さん、そろそろ実践やってみる?」
と任せてくれた。手伝いや練習はしてきたが、私に任せられた仕事は初めてだった。
私はなるべく作品の邪魔にならないよう色味を押さえ、季節を感じなられるよう夏山をイメージし緑に幅を持たせた。それをオアシスに指していった。
「いいんじゃない、うん。良いもの持ってるね。美大出身だからかなぁ、構成力があるんだよね。紗奈さんらしい、癒しのアレンジだね。」
笑顔で店長が言ってくれた。そして、少し手直ししてくれた。
「じゃあ、画廊に届けといてね。僕は商談行ってきます」
私はトラックに載せてナビを見ながら画廊へ向かった。
風情のあるレトロな画廊だった。入口に展示された作品は、大地に包まれるような、心地良い作品だった。作者名には伊山晴人と書かれていた。
「こんにちは、フローリストキトゥンです。アレンジおもちしました。」すると「ここにお願いします。」と声がした。
私は、はっとし声の主を見た、あの日私に力をくれたあの青年だった。
彼は一瞬軽く目を見開き、アレンジを見た。
「いいですね、これ、あたなたのアレンジですか?」
「はい、まだまだ勉強中ですが」
「凄く素敵だなぁ、個々の良さを主張しつつも、他と共存することで両者を更に引き立てる。良く花を見てないと出来ない作品だね。花への愛を感じじるなぁ。」彼は嬉しそうに私のアレンジを見て言った。
私には気づいていないのだろう。私を見る表情は変わらない。あんな薄暗い時間におばちゃんの顔なんか覚えてないよね。
次の機会はある日突然にやってきた。お店に電話がかかってきた。
「紗奈さん、お客様から電話」店長から渡された電話出る。「お電話かわりました。神崎です。」
「先日画廊にアレンジを届けてもらった、伊山です。あなたにお願いがあって。」
思わぬ彼からの依頼は、今度友人達とグループ展をするにあたって、私に会場を花で飾って欲しいとの事だった。勿論、私は二つ返事で引き受けた。
彼らの作品を見にアトリエに行った。それぞれが立体、日本画、油絵など様々な分野で制作しており、異世界に迷い混んだようにドキドキ、ワクワクする空間だった。興奮して立ち尽くしていると、「神崎さん、お久しぶりです。よく来てくださいました。この度は依頼受けてくれてありがとう。」伊山君が迎え入れてくれた。
「仲間を紹介させて下さい。ここは若い芸術家が5人で集まって制作活動している、アトリです。僕が主宰の伊山晴人です。こちらから、大森、里崎、国近、大橋です。」
紅一点の国近希と名乗った、誰もが振り返る美人で、日本画家だと言った。睫毛の長い綺麗な瞳は、真っ直ぐに私を捉えた。
大森君は一際おおがらで彫刻家と言った。大崎君は今は版画に力をいれてるらしいが、比較的多才でその時々興味があるものに取り組んでいるらしい。
里崎君は、テキスタイルデザイン、彼はデザイン事務所にも勤務しているらしい。伊山君とは一番に長い付き合いで、高校からの同級生だそうだ。
国近さんが伊山君を少し責めるように「例の花屋の人?」
「うん、そうだよ彼女のアレンジ良かったでしょ。」
「でもいつも作品の展示だけじゃん、何で今回植物が要るのよ。」
「その話はさんざんしたじゃん、今回はテーマが自然なんだ。実際に自然物が入る方が面白いんじゃないかってさ。俺達フラワーデザインは素人だから 手伝って貰おうってさ。彼女いい感性持ってるんだよ。ノゾも写真見て良いって言ってたじゃん。」
彼女は不満気な顔だった。
伊山君が「取り敢えず、作品を見て下さい。制作途中ですが、見て貰った上でどんな植物をどう配置するか相談していこうと思います。」と言った。
伊山君にアトリエ内を案内して貰いながら、今回のグループ展の趣旨を聞かされた。テーマは「自然への帰還」、皆の作品をまとめる役割の一環をフラワーデザインにも担って欲しいとのことだった。
間近で観る伊山君の作品はどれも心を包み込む優しさが溢れるなかにも、凛とした強さがあった。まるで孤独に気高くそびえ立つ大木のようだった。私は思わず、彼作品に釘付けになった、心が揺さぶられる作品だった。
やっとの思いで、心を鎮め「では詳細は次回下絵をお持ちしての相談にさせて下さい。」と言葉を絞り出した。こんなに心を揺さぶられる作品は、初めてだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます