困ったときの友頼み

 入試まで残り1月を切ったある日。クラスのほぼ全員が入試に向かってラストスパートをかけている中、和喜はただ一人遅刻気味に教室に入った。


「いやだー、もう1か月もないじゃん」

「沙月も私立受けとけばよかったのに」

「美加はいいよねー、どこに行っても受かりそうだもん」

「そんなことないよ、うちの学校倍率2倍だよ!?」

「まー受かるっしょ」

「そーだといいけど」


 耳を塞いでもなお、和喜の耳に声が入り込んでくる。和喜の最も聞きたくなかった声が。

 そうして和喜が浮かない顔をしていると、和喜の中学校時代からの親友、長谷川友彦が声をかけてきた。


「よ、おはよう和喜。今日も遅かったな」

「おはよう友彦。別に何ともねーよ」

「それで和喜、高峰さんとは順調か?」

「うっせーよ、何ともねーから」


 友彦は運動部に所属しており、その影響でガタイもよく、持ち前の性格のお陰もあって交友網も広い。


「ってかさー、高峰さん、また告られたらしいな。ま、案の定振ったらしいけどな」

「……どうでもいい、今日は眠いからパスで」

「ったく、最近つれねーな、全く。

 可愛い女子の情報なんて、集めておくに越したこたぁ無ぇだろ!?

 あの高峰さんなら特に」

「べ、別に可愛くなんてねーから」

「お前なぁ……学校一の美女に対してそんなこと言うなんて……どんな神経してんだ?

 ……その髪も、いつまでも伸ばしてっとモテねーぞ? 彼女のいない高校生活なんて、そんなん価値ねーだろ」

 そう言って友彦は和喜の髪をくしゃくしゃと撫でまわす。元から寝癖がつきっぱなしだったが、更に悪化してしまった。


「やめろよ、ってかお前も彼女いないだろ」

「まーな。だがオレは分かってるぜ、卒業式の日、俺に密かに告白しようとしている女子がいるってことが!」

「またいつもの妄想か」

「そんなんじゃねーよ」


 少し前から、友彦の性格はより明るくなり、無理に空回りすることが増えてきた。何かに突き動かされるように。


「和喜、最近どーしたんだよ。いいにくいけど、なんかその……暗くね?」

 あの出来事があってから、和喜はいつも自分で作っている食事を祖母に作らせるようになっていった。授業に至っては教室にいるだけの状態になっており、四六時中目から光が消えており、ボーっとしている時間が格段に増えている。


「まっ、とりあえず今日1日、頑張ろうぜ!」

「…………」


 友彦は焦点のあっていない視線の先を追うと、にこやかに笑った。

「和喜……本気で悩んでんなら、迷わずオレに相談しろよ。

 オレなりにアドバイスすっから」

「分かった」


 窓の外の天気には雲が立ち込め、冬の朝をより一層暗くさせていた。


「まー、こんな天気でやる気出せって言われてもなあ」

 自分の席に戻っていった友彦を眺めながら、和喜はそう呟いた。

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