朝食とテレビ

志央生

朝食とテレビ

 朝食を食べようとしたとき、テレビから流れてきたニュースに手が止まった。

「山中から白骨化した死体が見つかりました」

 その言葉に忘れかけていた記憶が蘇る。一年前、私が殺した男。きっかけはなんでもない、言い争いになり、もみ合いになっている最中に頭をぶつけた男が死んだ。打ち所が悪かったらしく、あっけない終わりだった。

 警察に捕まるのはゴメンだった。だから、死体を隠すことにした。車で山中まで運び、死体を埋めた。自分にとって運が良かったのは、死体が出血していなかったこと。現場の処理も短く済み、車で運ぶのも楽だった。

 服や装飾品は外して、土に返りやすいようにした。着ていた物は道中で分割して捨てた。そうして、何事もなく私は日常に戻ってきた。そのはずだった。

 テレビから流れてくるニュースは白骨の見つかったことしか言わない。警察がどこまで情報を把握しているのか口にしない。

 私は額に汗をかき、足を揺すっていた。食べようと思っていた朝食には手が伸びない。安心感がほしい、心の中はそれだけしかない。

 耳を澄ますようにテレビに目と耳が釘付けになる。

「なお、身元は現在わかっておらず」

 アナウンサーの口にした言葉にわずかに胸をなで下ろす。まだ身元がわかっていない、それはわずかながら安心感を私に与えてくれた。

 落ち着いたところ冷めてしまったホットコーヒーに手を伸ばし、コーヒーを口にする。同時にインターフォンが鳴り響いた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朝食とテレビ 志央生 @n-shion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る