番外編 かり初めの夜(後)(⭐︎)
ちょいエロ要素を散りばめてきた本作最後の甘い夜を、心を込めて綴っています(エブリスタの改稿版では限定公開)。
アダルト要素が強いです、くれぐれもご注意ください。今話を飛ばしてくださっても、ストーリーには直接影響しません。
(苦手な方はスルーしてください!)
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月の光は彼らが宮廷にいた時と変わらず四角い窓辺からまっすぐに差し込んで、月夜に咲く白い花を静かに照らしだす。
深い口づけのあとで、既に紅くなった頬がカイルの大きな手のひらに包まれる。僅かに開いた薔薇色の唇の膨らみを指でなぞりながら、彼の青い双眸は底抜けに優しくセリーナの瞳を捉える。
「綺麗だな」
吐息混じりの声。カイルは何度そう言って褒めてくれただろう。
彼の言葉を、もう否定したりはしない。それは哀れみでもその場凌ぎの褒め言葉でもなく、カイルの正直な声で、確かに自分に向けられたものだから。
——あなたにそう言ってもらえるのなら。
その言葉とあなたの存在を、私の『糧』にします。惨めだった私の人生を意味のあるものに変えてくれたのは、あなただから。
言葉を返す代わりに精一杯の微笑みで彼を見上げる、火照った頬、潤ませた瞳に、煌めく月の光を纏いながら。
今日まで散々飢えさせておいて。
耳元で囁く声は切なさを帯び、唇を何度も軽く
優しい指先が肩を撫でる。とうに全てを知られているのに、薄い夜着が剥がされていく恥じらいに悶えてしまう。すべらかな白い肌が露わになると、舌を翻弄し尽くした唇が首筋、鎖骨、胸元へと這っていく。
甘んじて受け入れる吐息は耐えるためのものではなく、喜びから生まれるものだ…… 早くそうされたいと、望んでいたから。
ぁぁっ……。弱いところを責められて、淫らな声が漏れてしまう。酔いのせいだか、喰まれるところ全てがひどく疼く。カイルは知っている、何処をどうすればこの身体が震え、喘ぐのか。
閉じていた瞼を薄く開ければ、強烈な雄の色香を滲ませる青い双眸と目が合い背筋が粟立った。唇が触れて熱い吐息がかかるところが熱を持ち、熱いのに、もっと欲しいと熱を求める。
焦らされながら指先で腹を撫でられ、腰がヒクッと跳ねた。
ふっ、……ぁっ!
女を知り尽くした彼の手は
カイルはこうやって、いったい何人の女性を啼かせたのだろう?自分のはしたなさが死にそうなくらい恥ずかしいのに、淫らな声など聞かれたくないのに……それをまったく、許してはくれないのだから。
白の侍女として初めて肌を重ねた時は、ただ身体を硬くして——早く終わればいいと、ひたすらにそればかりを考えていた。抵抗する程に次がすぐにやってきて……そのたびに自分は惨めであっても女なのだと気付かされた。
そして事件のあとの、あの夜。
この優しい腕のなかで、呪詛を溶かす「恋」が始まったのだ。
恥じらいから胸の上で握りしめていた手のひらに、長い指先が滑り込んでくる。指と指を絡ませて繋がれた手は、そのまま頭の上に縫い付けられてしまう。……はぅ、っ!無防備な脇の下を舐められ大きく肩が跳ねた。腹の下に伸びていく腕に怯え、身体を硬くして目を閉じると、指先を握る手のひらにグッと力が込められた……大丈夫だ、と。
チュッ、、、何度も耳に届くこの小さな音に、ひどく心を掻き乱されて。脇の下から流れていく唇、あたたかくて柔らかなものに喰まれるむず痒い感覚——無意識に腰が揺らいでしまうのは、何なのだろう?
「ぃ、ゃ、……っ」
一方的にこんなにも打ちのめされてしまうのは悔しい。けれど相手が心地良いと感じるところを、この人は知り尽くしているのだから敵わない。
「カイル……ぁぁ、私、もう……っ」
脳天を突き破る衝撃に悶え、体中の力が抜けてゆく。こうなってしまったら!いつもなら……ゆっくりといたわるように、優しく抱きしめてくれるのに。
「まだまだだ、戻って来い」
荒々しい吐息が治まらないのに。苦しい呼吸の上に、執拗な口付けが重なる……ん、ふっ、息をうまく吸えなくて、とても苦しい。なのに首筋を喰まれ身体中を愛されれば、朦朧としていたものがすっかり呼び覚まされてしまう。
「今からお前の全てを奪う。お前は……俺の全てを受け入れられるか?」
肌を重ねる幸せと悦びとは別のところで、底知れぬ恐怖を感じずにはいられない。『男性を知らない』セリーナにとって、
「俺も
ふと緩んだ彼の頬とその言葉が引き金だった。
カイルの眼差しにもう鋭さはなく、むしろ見たことが無いほどに心許ない。
カイルも私と同じ気持ちを抱えている——。
恐怖心が少しずつほどけて幸福に変わっていく。怖いと思う気持ちがなくなったわけではない。けれど愛する人と「互いに初めて結ばれる」事の幸せが、ゆるゆると心を満たしていく。
「……は、い」
一筋の熱い涙が頬を伝う。こくりと小さくうなづけば、カイルを見上げて微笑みかけていた。
セリーナに赦しを乞うように、そして慰めるように抱きしめて。
彼は小さく息を吐き、『禁忌』と呼ばれるその先へ——…
ひ、……あぁぁっっ
反芻する痛みのなかで意識は薄れ、視界の先に映る天井の装飾をぼんやりと見つめていた。
「体が痺れる……。これはお前が、つがいの相手だからなのか?」
カイルが何かを呟いたが、今は届かない。
身体の内側は燃えるように熱いのに……
薄れた意識の向こう側は、嘘のように静かだ。
——子供ができればいい。
後継に恵まれなかったという公爵の話を聞いてしまったからなのか。
突拍子もない考えが意識の遠いところから湧き上がる。
カイルは行く行くは皇帝になり、帝国の頂点に立つ人だ。いつまでもこんな場所にいるべきではない。追われる前に、彼の居場所に戻らねばならない人だ。
カイルがここを去ってから、懐妊がわかれば。
もしもそうなれば……それは罪深い自分に与えられた最後の『恩赦』だ。
愛する人の子を腹中で愛おしみながらはぐくみ、密やかに大切に、産み育てることができたら。カイルを失ってしまった人生に、一条の輝きを添える事が出来るのに。
けれど——。
皇太子の子を産み育てるなど祈る事すらも烏滸がましく、どんなに願っても叶わないと、苦しいほどに知っている。
「……痛いか?」
労わるような、優しい口づけが重なる。
徐々に和らぐ痛みの代わりに痺れてゆく肢体。激しくなる律動のなかで、静かに止めどなく、熱い涙が頬を伝い続けた。
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