第四章
第50話 出逢い
「ロイス、さっきから食べてばかりじゃないか?」
片手にホットドッグ、もう片方にクレープを持ちながら歩く護衛官に、カイルが呆れた視線を送る。
「んっっ!?ここのクレープ、ちょと味が落ちたな……」
帝都視察中の皇太子に同行しているのは——帝国治安部隊長で皇太子カイルの直属の護衛官でもあるロイス・スタンフォード。
柔らかそうな栗毛に青い双眸、二十代前半の溌剌とした彼は名門家の子息のような柔さを感じさせるが、その見た目にそぐわず
「そもそも、お前がいなくても俺は一人で平気だと何度も言ってる!なんでいつも付いて来るんだ……」
「……まあ、殿下が護衛要らないっていうのはわかりますけど?でも俺は殿下の護衛官なんだから仕方ないでしょ!」
「単に買い食いしたいだけだろう!?」
「いくら殿下でも、街じゃ何があるかわかりませんからッ」
——あむっ。
クレープを食べ終えたロイスは美味そうにホットドックを頬張る。
背高い建物が立ち並ぶ大通りをそれ、街の中心に位置する広場は人々の憩いの場だ。
噴水を囲んで幾つもの商店が軒を連ねる。新鮮な果物や軽食のワゴン売りが軽快な声をあげ、新進気鋭の音楽家たちが奏でる路上コンサートが常時開かれている。
多くの人々が行き交う広場の、様々な人間模様。
カイルはこの広場の水場の縁に腰をかけて、和やかな街の風情を見るのが好きだった。
帝都の人々が営む穏やかな日常の様子を見ていると、日々休む事なく国務に邁進することが報われるような気持ちになるのだ。
目の前で子供たちが連れ立って、ワーッ!と叫びながら鬼ごっこをしている。無邪気なその姿を見て、カイルは静かに微笑んだ。
「殿下はいいパパになりそうですね」
「パパ?!」
「もうすぐじゃないですか、結婚」
「結婚はまだだ!」
「デルフィナが来れば、
「まだパパになるつもりはない」
——そう言えば、
と、ロイスが呟くように言う。
「エルティーナ・アイリスリン・フォーン」
「……ン?」
「フォーン王国の第三王女。いつ来るんでしょうね」
「誰だそれは」
「———えええっっっ!!??」
ロイスの大声に、走り回っていた子供達が驚いて立ち止まる。
「自分のデルフィナの名前も知らなかったんですか?!」
「興味が無いからな」
あはは!!殿下らしい——と、ロイスは腹を抱える。
「我らの中では既に周知ですよ?!アドルフが伝えてなかったのかな」
「奴は不在にしてたしな……」
カイルはおもむろに立ち上がって歩き出す。広場の向こう側の、とある店が目に留まったからだ。
「ん、買い物?!
その店のショーウィンドウに並ぶものをカイルはじっと見つめる。
「んんん?!?!」
ロイスの素振りは、まるでおかしな物でも見るようだ。
「……エルティーナ姫に、ですか?」
「お前はここで待っていろ」
店に入ったカイルは、店主に何やら色々と聞き入っているようだ。
そして数分後。
店から出てきたカイルの手には、小さな袋が垂げられていた。
「ふ〜〜〜ん」
「その顔は何だ」
「興味が無いとか言っといて、本当はちゃんと考えてるんだ!」
「お前の想像はいつでも間違ってる」
「でも
二人が歩き出したその時だった。
きゃああああっ………
誰かっ!!!お嬢様を、助けて!!!!!
騒然となる広場。
カイルとロイスの呼吸が瞬時に一体となる。
今、何をするべきか、言葉を交わさなくとも互いにわかっている。
「……行こう」
小さな袋をローブにしまい、代わりに腰元の長剣を握りなおしたカイルが呟いた。
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