第47話 声が聴こえる



「セリーナの髪、ツヤツヤで本当に綺麗。量もたっぷりありますし、ちょっと巻いてみましょうよ?!」


就寝前の、夜中の女子トークが弾んでいる。


「ふふっ。アリシアみたいには、似合わないと思いますよ?」

「待って待って!今巻いてみますから……」


アリシアの『七つ道具』のひとつ——円形の小さな筒のようなものを使って次々と器用に巻かれていく髪を、セリーナはされるがままに……あっけに取られながら見守っていた。


「頭がモコモコ……っ?!」

「今はですから。この状態で少し時間を置けば!」


 ぷっ。


鏡に映った自分の姿はとても滑稽で笑ってしまう。


(これでは外に出られませんねっ)


セリーナの髪を巻く間も、アリシアの薬指にある指輪は煌めいて……それはまるで幸せの輝きの象徴に見えた。


——自分には決して手に入らない、その『輝き』。

それは、あまりにも眩しくて……。


「アリシアの旦那様になる人ですから……きっと素敵な方でしょうね」


(私のぶんまで、アリシアには幸せになって欲しいです)


「え?」

「背は高いのですか?素敵な声ですか?!優しくしてくださいますか??」

「セリーナっ、それはあなたの好みではっ?!」


 ふふふっ。


「いつかきちんと紹介しますね。背が高くて、声がカッコイイの!」


——背が高くて、声が素敵で、とても優しくて。


(あなたは今頃どこにいて、何をしていますか?

 あなたに……逢いたいです)


 カタン。


「??」

「今、何か音が……」


気のせいかしら?と、二人が首をかしげる。


 カタン、ガッ


「何っっ?!」


窓ガラスに明らかに何かが当たる音がして、顔を見合わせた二人が窓に近づき外を見ると——…


「ちょっと!?セリーナ!!」

「えええっっっ……」


——まっ、窓に石を投げるなんて無謀ですよ?!もしお部屋を間違えてたら!!


階下の庭に黒いローブを羽織った男性の影があり、こちらを見上げている。

は二人の姿を認めると、片手をあげて空に向けた手のひらをくいっと動かした。


「来い……?」

「って、言ってます!」


(えええ………っ)


「アリシア、どうしましょう……」

「行く以外に選択肢ないでしょう!」


(こ、こんな事って……?!これは夢かしら……)


ワタワタとローブを羽織り、扉に向かおうとするのをアリシアが「待って!」


「頭、モコモコ、———っ」




 ⭐︎




夜中の回廊はやっぱり怖かったけれど、三階からひと息で階段を駆け降りた。

巻き終わったばかりの髪がふわふわと背中で踊っている。


一歩踏み出す度に「逢いたい」が膨らんで、もつれそうになる足を必死で動かした。


皇宮の出口が近づいた時、そこに大好きな人の影が見えて———。


「皇太子様…………っ」


まであと数歩、というところでついに足がもつれ、


 きゃっ———!


大きな手が伸びて、転倒しそうになった身体を力強く抱き止めてくれる。


「……お前はッ。なんでそんなに転ぶんだ?!」

「ご、ごめんなさ……」


《———ったく、転ぶ姿も可愛すぎる。守衛の目を盗んで会いに来た甲斐があった》


(え……??)


《今日は髪をふわふわさせてるんだな……可憐だ!とても似合っている、夜会に出して自慢したいくらいだ。もちろん俺のエスコートでッ》


(ええ……っ!!)


抱き止めてもらったあとは、そのままふわりと抱きしめられて……。


「ホントにお前はドジだな……」


《だから心配で放っておけないんだ。風呂上がりなのか?今夜もいい匂いがする》


(これは……………っ)



———殿下の、心の声?!?!

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