第6話 伯爵家からの贈り物(ニ)
とにかくこの晩は、みな、おなかにいっぱいごちそうを詰め、子ネズミのように身を寄せあって眠ったのです。
けれどマーガレット姐さんの仕事はまだ終わりません。
五人の子供たちの拵えてきたかぎ裂きや穴をつくろい、おや、またボタンをなくしたようだ、代わりのものを探し、あてがいます。
屋台の軽食屋が通り、街角に立つ女や遊び人たちにコーヒーとサンドウィッチを売り、つまらないお喋りや、わびしさや見栄っ張りを交換して、また場所を移って行ったようでした。
姐さんもひと息ついて、さてそろそろ休もうかと、その時でした。
『マルグリット』
明かりは手元を照らすろうそく一本きり。
声がしたのは、暗がりからです。
『ご苦労だったわね。
だけど、相変わらずなんていう手つきなの。雑な縫い目だわ。
ひとこと言ってくれれば、手伝ったのに』
「それは気持ちだけいただくよ」
『こんなの、たやすいことよ。
ひどく煤が出るランプで目を真っ赤にしてね。
それでもお針子仲間の朋輩たちと、血の涙が流れるまで、縫い続けたんですものね』
何度も聞かされた繰り言なのでしょうか。姐さん、ふう、と、ため息をついて、
「そうだね。苦労をかけたと思う。おかげであたしは修道女会に居られた。わかっていますとも。
だからもう、十分休んで構わないんだよ」
『ねえ、あたしの〈戒め〉を解きなさい、マルグリット。
五人の子供たちも、二人の手で世話をしたほうが、どれだけいいかしれない。
最初だけよ、こわがるかもしれないのは。あたしが咬みつかないとわかれば、じきに慣れてくれるはずよ。もっとおいしそうな、顔色のよい子たちになるわ』
このあやしき甘い声、姐さんを故郷での名で呼びます。
「あまり喧しいと、子供たちが起きちまうよ。
それもお気持ちだけで。お姉さま。
そうなればね、
どうにも面倒ですことよ」
静かになりました。
「なにせ、あなたもまだ、〈行方知れず〉なんですからねえ」
姐さん、針箱を片付け、ふっ、と灯りを消します。
その時でした。
犬の吠え声がして、何ものかがやってくる気配がいたします。
「開けろ!」
乱暴な声がして、ドアが勢いよく叩かれます。
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