好きって感情だけで人は変わる
自覚してしまえば恐ろしいもので、想いを伝えた方がいいんじゃないかという気持ちがしてくる。
けれど、拒絶されるのが怖い。
そんなつもりじゃなかったと思われるのが、一番怖い。
クライヴは、本当に私に好意を持っていてくれているのだろうか。
ただなにかおもちゃのように思っているだけかもしれない。そして私はそれを勘違いして……。
「ハイネ、この本についてなんだけど」
「はっ!」
考え事に没頭していた私を、クライヴの声が現実に引き戻す。
「本当に調子悪そうだけど……休んだ方がいいんじゃない?」
「いえ! 大丈夫です!」
慌てて首を振る。こんな時に休むわけにはいかない。
「でも……」
クライヴが心配そうに覗き込んでくる。
その距離の近さに、思わず後ずさりしてしまった。
「あ……」
クライヴの表情が、一瞬だけ曇る。
私の態度が、彼を傷つけているのかもしれない。
でも、今は近くにいられると、心臓が持たない。
「ごめんなさい。ちょっと、驚いて」
「そう……」
クライヴは何かを言いかけて、でも結局黙ってしまう。
気まずい空気が流れる。
こんなの、私たちらしくない。
いつもなら、自然と会話が弾むのに。
「あの」
「ハイネ」
同時に声を掛け合って、また気まずくなる。
「どうぞ」
「いえ、クライヴが先に」
「……ハイネは、僕のこと嫌いになった?」
「え?」
予想もしない言葉に、私は絶句する。
「だって、最近僕が近づくと逃げるみたいだから」
クライヴの声には、心なしか寂しさが混じっている。
「違います!」
思わず大きな声が出る。
「そんなの、絶対違います。むしろ……」
「むしろ?」
クライヴが、期待するような目で見てくる。
むしろ好き、なのに。
その言葉が、また喉まで出かかる。
でも、やっぱり言えない。
「むしろ、私の方が……その……」
言葉が途切れる。
けれど、クライヴはじっと私を見つめている。
「ハイネの方が?」
「私の方が……クライヴのことを……」
「好き?」
「そうですね。好き、です……」
言った。言ってしまった。
というか疑問形で聞かれてしまったらそう答えるしかない。これはクライヴが悪いと思う。
「やっと言ってくれたね」
クライヴはというと、にっこりと笑顔になっていた。これまで見たことがないくらいの笑顔に。
「僕も好きだよ。ううん、僕の方が好きっていうべきかな。だってずっと好きだったんだから。一眼見た時から、その姿形にも性格にも反応にもずっと心臓を高鳴らせてたんだよ? もう、本当にやっと言ってくれて安心したよ」
一息でそんな長い言葉を言い終わるくらい、私のことを好きでいてくれたらしい。
だからこそ私は、彼に保護されて優しくされていたのかと思うと、納得がいった。
彼はここが執務室であることも忘れてか、私を力強く抱きしめる。そして、耳元で囁いた。
「もう、絶対どこにも帰さないから。覚悟してね」
「は、はい……」
戻れない現代日本に想いを馳せる。
……クライヴに愛されるなら、あんな世界、別にどうでもよかったのかもしれない。
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