ケーキ

「ここ、ここ。このお店」

 街の中心から少し外れた通りに面した小さなケーキ店。クライヴが案内してくれたその店は、思っていたよりも小さな店構えだった。

「へぇ、こんなところにお店があったんですね」

「うん。ノワがたまたま見つけたらしいんだけど、ケーキが美味しいらしくて。ケーキなら、ハイネも好きかなって思って」

 そんなクライヴは、嬉しそうに店内へと入っていく。

 チリンと鈴の音が鳴る。

 店内は清潔で明るく、優しい雰囲気に包まれていた。ショーケースには色とりどりのケーキが並んでいる。

「いらっしゃいませ」

 店主らしき中年の女性が、温かな笑顔で迎えてくれた。

「こんにちは」

 クライヴが挨拶をする。今のクライヴとアカツキ様には、認識を阻害する魔法がかかっているので街を歩いていても問題はないのだ。

「こんにちは。三人もお友達でいらしてくれて嬉しいです」  

アカツキ様は軽く会釈をした。私も慌てて頭を下げる。

「さて、今日のおすすめは……」

 店主が説明を始めようとした時、クライヴが途中で話を切った。

「あ、今日は新作のストロベリーショートケーキがありますよね?」

「ええ、ございますよ。よく御存知で」

「実は、今日はそれを楽しみに来たんです。ね?」

 クライヴの目の輝きが増す。

「では、三人分ですね」

「アカツキ様も召し上がりますか?」

「そうだな。ありがたくいただこう」

 アカツキ様は断らなかった。

 私たちは窓際の席に座る。

 程なくして運ばれてきたケーキは、確かに見た目が素晴らしい。真っ赤なイチゴが、生クリームの白さを引き立てている。

「さぁ、ハイネ。どうぞ」

 クライヴが促す。その表情は、まるで自分が作ったケーキを振る舞うかのように誇らしげだ。

「うん、いただきます」

 フォークを入れると、しっとりとしたスポンジが、するりと切れた。

 一口。

「美味しい!」

 思わず声が出る。スポンジはふんわりとしていて、生クリームは甘すぎず、イチゴの酸味が絶妙なアクセントになっている。

「良かった」

 クライヴも満足そうに頷きながら、自分の分に手を付ける。

 ……と思ったら。

「あ、クライヴ。その下の紙は……」

「大丈夫! 今日は覚えてるよ」

 クライヴは慎重に台紙を外してから、ケーキを口に運んだ。

「うん、美味しいね」

 ちょっと幸せそうな表情で、クライヴが呟く。

 アカツキ様も黙々とケーキを食べている。なんとなくこんな下町のものなんて口にしないような雰囲気なのに、意外と美味しそうに食べている。

 私は、この不思議な光景を眺めながら、また一口。

 確かにここのケーキは美味しい。でも、それ以上に――この時間が、とても心地よかった。

「ねぇ、次は何曜日に新作が出るんですか?」

 クライヴが店主に尋ねる声が聞こえる。

 また来るつもりなんだろうな、と思うと、なんだか嬉しくなった。本当にクライヴは、何かを食べることが楽しくなっているんだ。

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